+brotherly+
+affection+
秘密
外に出ると雨の降りはさっきよりも弱くなっているものの、
大降りであることに変わりない。
「仕方ないか」
そう言うと拓斗は持っていたバッグを上にして、走って学校を後にした。
10分位すると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「拓斗ー」
すぐに兄貴だとわかった。
走る足を止め、雨の中拓弥が自分の側に来るのを待つ。
「傘持ってないのかよ」
「だって今日晴れてたろ。普通晴れてる日に傘なんて持ってかないって」
「だけど天気予報は雨って言ってたぞ?」
拓弥は雨の中に、少しやにやしながら拓斗に言う。
「うっさいなー。良いだろ別に。丁度良いし、傘入れてってよ」
そう言う拓斗に、拓弥は少し考えてから言う。
「別に良いぜ。ただちょっと条件つきだけどな」
「?なんだよ、条件って」
拓斗は身体を少し拓弥から引き、警戒する。
「んー、別に変なことじゃないって」
すると拓弥は拓斗に近づき、右手に傘を持ちながら左手を腰に回す。
そしてそのまま引き寄せるように自分の顔に近づける。
「わっぁ、なっなにすっ!!んんっ」
拓弥は近づけた拓斗の顔を、そのまま自分の唇へと運ぶ。
「あっ…んっ…んっ…」
外でしていることは解っていたけど、拒否することができない。
流されるまま拓弥の唇に、目を閉じ身を任せてしまう。
「んんっ…」
拓斗はすぐに足ががたついて、立っているのがやっとな状態になってしまう。
「んっ…ふっぅあ…」
意識が少しうつろになり本当に倒れてしまいそうになる。
とっさに拓斗は自分の身体をより拓弥に近づけようとしたせいか、
ほんの少しだけ目が開く。
目の前には自分に口づける拓弥の顔があり、その後ろが少しだけ見える。
するとそこにはうっすらと誰かの姿が見えた。
それはどこかで見たことのある姿…
見間違えることなどありえない、智樹だった。
その瞬間うつろだった意識が元に戻り、拓弥の身体を突き放す。
「おわっ!!いきなりどうし…」
「智樹っ!!」
「あっ…」
そう拓斗が呼ぶと、智樹はその場から逃げるように走り去る。
「智樹っ!!待って!!」
そう言う拓斗の身体はその場から動くことはなく、
自分の前から遠ざかる智樹を見ていることしかできなかった。
「智樹…」
追いかけることは出来なかった。
少なくとも智樹の気持ちを知っていたのに、
自分は拓弥に愛されていることを隠し続けてた。
自分は智樹を裏切った…
だからたとえ追いかけていっても、言い訳も何も出来ないと思った。
雨の強さはドンドンと強くなり、
拓斗の身体は上から降ってくる水でびしょびしょになる。
「拓斗…」
拓弥もどう声をかけて良いのか解らなく、その場に立ち尽くしている。
こんなことで知られたくなかった。
出来ることなら、自分の口で伝えたいことだったはずなのに…
拓斗の目からうっすらと涙がこぼれる。
だが目から流れる涙も、雨で解らなくなってしまっていた。
「拓斗…」
拓弥が傘を差して拓斗に近づく。
「拓斗、家に帰ろう。このままじゃ風邪ひいちま…」
すると拓斗は無言で拓弥の胸に飛び込む。
「わっ…」
驚きで拓弥は手に持っていた傘を落とす。
「おい…拓斗?」
「ひっ…えっ…えっ…」
大きな雨音に混じって、小さく泣く拓斗の声が聞こえた。
「拓斗…」
拓弥は両手を拓斗の後ろに回し、抱きしめてやる。
「ひっく…えっ…」
拓斗はそのまま拓弥の胸で泣き続ける。
雨はさっきよりも強くなっていっていた。
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