+会えてよかった+
四話


「もう大丈夫そうですね…有難う御座いました」
医師の言葉に看護婦は小さく笑顔を見せて、持ってきた医療道具を乗せたものと一緒に部屋を後にする。
「さて…私も別の仕事が残っているので、とりあえず失礼しますね」
「えっ…」
太陽はずっと医師がいてくれるものだと思ったが、流石にそれは出来るわけがない。
「…私も一人ばかりを見ていられないもので…本当はそうしたいのですが…」
太陽の戸惑いの声に、医師は顔を下にさげて申し訳なさそうな声でそう言う。
そんな医師の言葉に、太陽は少しだけ考えて口を開く。
「じゃああのっ…俺今日ここに泊まっても良いですか? その…心配だから…」
今は尚希の側にいたい…尚希の側にいなければ、心配で仕方がない。
この場を離れたくない…太陽はそう強く思っていた。
「……」
太陽の言葉に、医師は少しだけ困惑した表情を見せる。
確かに太陽は尚希の友人であるが、病院の規則として宿泊を認めるのは両親だけとなっている。
「お願いします! 尚希の奴、また苦しみだしたりしたら…俺」
自分には何も出来ないかも知れない。…いや、何も出来ない。
それでも近くにいたい。少しでも尚希の近くに…
「…本来なら認めないことなんですが、緊急事態もありえますから…お願いできますか?」
太陽の強い思いを感じてなのか、医師はそう口を開く。
「…ありがとうございます」
その言葉に太陽は頭を深く落として、医師に礼を言う。
「それでは私も失礼します。病室とはいえ夜は寒くなりますから、きちんと毛布をかけて下さいね」
「はい…ありがとうございます」
太陽は再び礼の言葉を口にし、医師はその返事を聞くと尚希の病室を後にする。
「…尚希」
2人きりになった後、太陽は面会者用の椅子に座り、眠る尚希の顔に目を向ける。
とても安らかで、さっきまでの苦しむ表情とはまるで違っていた。
「……」
そして身体の方に目を向けると、左手だけが布団から出ている。
「ちゃんと布団かけなきゃ…」
太陽がそういって尚希の左手に手をかけると、尚希は太陽の手を強く握り返してくる。
「尚希?」
起きているのかと思い尚希の顔に目を向けるが、そこには先程と同じよう、小さな寝息を立てて眠る尚希がいた。
「……」
太陽は小さく笑顔を見せ、自分の手を握ってくる尚希の手を力強く握り返してやる。
「んっ…たいよ…さん…」
すると尚希の小さな寝言が聞こえてくる。
「…尚希…ここにいるから、安心しろよな…」
太陽はそう小さく言うと、再び尚希の手を強く握ってやる。
その夜は尚希の握る自分の手を離すことなく、太陽はずっと握ってやっていた。


尚希が苦しんでる時に、何も出来ないのは凄く辛かった…
けれど…自分に出来ることならば、何でもしてやりたいと思った。
自分に守れるのならば、必ず守りたいと思った。
ただ…大好きで、大切な奴だと思ったから…


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