+会えてよかった+
六話


「尚希…大丈夫か…」
太陽は抱きしめた尚希の身体から離れ、支えながら再び尚希をベッドに横たわらせる。
「…うん…ありがとう…太陽さん」
「ん…気にするなって…」
尚希を横に寝かせると、太陽は面会者用の椅子に座り込む。
「…太陽さん…」
「どうした…尚希」
小さな尚希の声に、太陽は敏感に反応を返す。
「あ…うん。手をね…握っててくれないかなって…」
太陽の反応に少しだけ驚きながら、尚希はそう言ってくる。
「…解ったよ」
そう言うと太陽は、尚希の左手を強く握り締めてやる。
「太陽さんの手って、大きくて、温かくて大好きなんだ…凄く落ち着くんだよ」
「そうか…」
尚希の言葉に、太陽は少しだけ照れ笑いを浮かべながら返事をする。
「ごめんね…太陽さん」
少しして尚希は、太陽にそう言ってくる。
「何がだよ…」
「病気のこと…黙ってたから…」
尚希の病状については、確かに今日になるまで全く知ることはなかった。
確かにこうなる前に、知りたかったと思う。
けれどもう過ぎてしまったことを、言っても仕方ない。
「…良いって。そんなの気にしなくてもさ…」
言いなれてしまった言葉を、太陽は笑いながら言う。
尚希と会って、何度この言葉を口にしただろう…尚希がどうでも良いことを謝って、自分がそう返事を返す…
「うん…ありがとう…太陽さん…」
尚希の返事に、太陽は少し照れるような表情で言う。
「今更、『さん』なんてつけて呼ぶなって…」
「ぅん…ありがとう…その、太陽…」
最初で最後…自分のことを、名前だけで呼んでくれた瞬間。自分と尚希の距離が、完全になくなったと思った。
「あぁ…」
太陽は尚希の言葉に、笑顔を見せる。
そして尚希はそう太陽のことを呼び捨てにして小さく笑うと、目を閉じて何も話さなくなってしまった。
遠くからでは、眠っているようにも見える。
「…尚希?」
けれど太陽が声をかけても、尚希はもう何の反応も返してはくれない。
「眠いだけだよな…そう、だよな…」
それでも自分の握る尚希の左手は、だんだんと温かさをなくしていく。
まるで金属で出来た手を握っているかのように、硬く、そして冷たく…
「…尚希…なおっ、き…眠いだけなんだよな…眠い、だけだよな…」
太陽が尚希の顔に目を向けると、そこにはさっきまでの苦痛に満ちた表情ではなく、安らかな顔がそこにあった。
「尚希…なお、き…」
握り合う手に、太陽の涙がこぼれていく。
冷たさと温かさ…二つの手の上に、止め処なくこぼれていった。


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