+Love You+
五話/意思と本能


「…ふぁ…ふ…」
暗い倉庫の中に、将幸は一人放心状態で座り込む。
身体にへばりつく精液は乾き出しているものの、その姿は友紀哉が去った時から変わっておらず、動いてすらいない。
「っふ…ふぅ…」
もう恐怖を感じる存在はいなくなっているはずなのに、将幸の身体には力が全く戻ってこない。
それはたとえ離れても、将幸の精神そのものに友紀哉の恐怖が植えつけられていることに他ならない。
自分の瞳にその姿が映らなくても、将幸には監視されているように感じる。
逃げることの出来ない…逃げようのない恐怖…
「……」
しかし自分の身体が感じていたものは、それだけではなかった。
それは友紀哉に明日も会おうと言われた時、一瞬だけだが全身が痺れ、うずいた…
間違いなく、友紀哉のことを求めているのだと思った。
…快楽を求める本能が、自分の意思とは関係なく友紀哉を求める…
「……っ!」
将幸は自分の頭の中にその気持ちを感じとると、上下の歯を合わせて力を込め始める。
『いつか…必ず…』
身体を重ねている最中も決して忘れなかった意思で、頭の中を満たそうと必死になる。
この先本当に友紀哉から逃げ出すことが可能かどうかは、自分が一番に理解している。
しかし今の自分の気持ちを落ち着けさせ、そして正常な精神でいられるようにする為には、そう思うことしかできなかった。
『絶対…逃げ出してみせる…』
快楽を求める本能に身体が負けても、自分の意思だけは絶対に譲らない。
『必ず…必ず友紀哉から逃げ出してみせる…』
将幸は倉庫で一人、そう心に刻み込んでいた。


[0]back