+大好きなお兄ちゃんへ+
「…ただいま」
健はいつも通り、夜も完全に更けた辺りに帰宅する。
遅い時間もあって家の中から返ってくる返事はなく、健はゆっくりと暗い家の中へと足を運ぶ。
「ふぅ…」
少しだけ疲れた顔をしながら、玄関を入ってから続く廊下を歩き、その先にある台所へと向かう。
「ん? ラグナか?」
真っ暗な台所から、寝息のようなものが聞こえてくる。
圭太はすでに自分の部屋で寝ていると思っている健は、そう言いながら台所の明かりをつけようと明かりのスイッチを探して押す。
「…圭太か…」
そこには沢山の紙を台所の机に散らかしながら、その紙の上に顔を埋める圭太の姿があった。
もう完全な眠りについてしまっているせいか、部屋の明かりがついても何の反応もなく、スースーと寝息を立て続ける。
「仕方ないな…こんなに散らかして…」
「くぅん? わふわふ…」
健が眠る圭太を起こそうとすると、居間の方からラグナの小さな声が聞こえてくる。
「ぅん? ラグナか…起こしてしまったかな?」
するとラグナは全身を伸ばして、あくびをするように身体を動かす。
そして健の姿を確認すると、右の前足を前に出して何かを指差すようにする。
「わんわん…」
出来るだけ圭太のことを起こさないようにしているのか、その声はとても小さい。
「どうしたんだ、ラグナ。椅子のことか…ん?」
ラグナの小さな身体では、椅子の所まで足が届く訳がない。
けれど健はその指差す先が椅子のことではないかと思い、その場所に目を向ける。
するとそこには、キレイにラッピングされた小さな箱が置かれていた。
「これは…?」
健はその箱を手にしながら、それが何であるかを確認するように見る。
しかし特に何かが書いてある訳でもなく、誰かへのプレゼントであるということ以外は解らない。
「圭太が誰かに貰ったのか?」
プレゼントを手に考え込んでいると、再びラグナが小さな声で吠え始める。
「わんわん…」
「ん…まだ何かあるのか?」
そう言って今度は眠る圭太の身体に目を向けると、散らかされた紙がレターセットのものであるとわかる。
「手紙? …母親にでも書いてたのか」
圭太が手紙を書こうとする相手…それは母親へ宛てるものだと健は思っていた。
「ん? これは…俺への手紙?」
しかし文字の書かれている1枚の紙を見つけて手に取って見ると、それは自分宛てに書かれた手紙であることが解る。
「……」
健はその手紙の内容に目を向け、書かれていることを頭の中で読み進めていく。