+大好きなお兄ちゃんへ+


ひらがなも多く、お世辞にもキレイに書けているとは言えない手紙を手に、健は圭太の顔に目を向ける。
「…圭太…ありがとうな」
圭太を起こさないように小さな声で言うと、手に持った小さな箱のラッピングを解いていく。
中身は手紙に書かれていたように、普通よりも小さめのチョコレートケーキが一個だけ入っていた。
「バレンタインデーか…嬉しいもんだな…」
今まで健はバレンタインデーにチョコレートを貰うことはあったけれど、今日ほどに嬉しいと思った日はなかった。
愛しい圭太が、自分の為にプレゼントを買ってくれたこと…ただそれが嬉しかった。
「わんわんっ」
チョコレートの甘い香りに誘われたのか、ラグナは健の身体に近づいて物欲しそうに自分の身体をこすりつける。
「安心しなさい。ラグナの分もちゃんとあるから…でもこれは、明日になってから。圭太が起きてからにしような」
「わんー」
健はラグナの頭を撫でながらそう言うと、その言葉を理解したのかラグナは頭をぺこりと下げて返事をしてきた。
「よし。さて、今日はもう遅いからな…先に部屋に行ってなさい。俺は圭太を連れて行くから」
「わん」
ラグナの頭を撫でていた手をあげ、健は寝室の方にその手を向けながらそう言うと、ラグナはひとつ返事をしてその方向へと向かっていく。
「…圭太、ここにいると風邪を引いてしまう。寝室の方に行こう」
「ぅん…スー、スー…」
健はラグナがいなくなった後、圭太の背中を優しく叩いて起こそうとする。
しかし圭太は目を覚ますことなく、気持ち良さそうに寝息を立てるばかりだった。
「…仕方のない子だ」
そう小さく笑顔を見せながら言うと、健は圭太の身体を抱きかかえようとその場にしゃがむ。
そして圭太の小さな身体を優しく抱き上げ、寝室へと向かって歩き出そうとすると、圭太は突然ささやくような声を出してきた。
「…ぅ、ん…おにいちゃん…大好き…」
「圭太? …寝言か」
その声に気がついて圭太の顔に目を向けても、そこには目をつぶって小さな寝息を立てる圭太の顔があるだけだった。
けれど圭太は嬉しい夢を見ているのか、僅かに笑みがこぼれているようにも見える。
そして繰り返すように、健のことを口にしていた。
「…おにいちゃん…スー、スー…」
「…俺も、圭太のことが大好きだよ」
両腕に圭太のことを抱きかかえながら、健はそう言って圭太の頬にそっとキスをしてやる。
すると圭太の顔が、先程以上に嬉しそうな表情に変わっているように見えた。
「…ぼくも、だいすき…」
そんな圭太の顔に、健は再び小さな笑顔を見せる。
眠っている時も、自分のことを考えてくれている…どんな時でも自分のことを想ってくれていることが、健にはただただ嬉しかった。
「ありがとう…圭太」
嬉しそうに眠る圭太の顔に、健はそう言ってずっと微笑みかけていた。


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