貴方に抱いて欲しい


「あ………あの」
 と二人きりの部屋の中で、頬を僅かに赤らめ、恥ずかしそうな声を出す。
 その瞳も延々と泳いでいるようで、視点は一向に止まろうとはしない。
「だからー…は俺にどうして欲しいんだよ?」
 言葉だけを聞けば、面倒くさがっているとしか思えない。
 だがその表情は明らかなまでににやけており、楽しんでいることが目に見えて解る。
「だからっ…その…」
 しかし自分の視点すら合わせられなくなっているには、そんなの表情を確認することが出来ない。
 嫌味のようにも感じる声だけを耳にしたは、あからさまに焦りにも似た声を出し始めた。
「…どうして欲しいんだ? は…」
「あっ…その」
 なおも嫌味に言い続けるに対して、はだんだんと顔を下に落としていく。
 口数も少なくなってゆき、ついには完全に無口になってしまった。
「…? あっ…」
「……っ」
 うつむいてしまった表情は陰になってしまいとても暗く、しっかりと確認することは出来ない。
 しかしの目には、の目にキラキラと光るものが見えたような気がした。
 こぼれてはいないものの、その瞳には間違いなく、涙を溜め込んでいるようだった。
 それでもは涙を流さないようにと必死にこらえようとするが、こらえることの出来ない涙は、身体の震えとして現れ出す。
『あぁっ……っ!』
 そんなの姿を見た瞬間、の胸が一気に高鳴っていく。
 泣かせるつもりなど微塵もなかったが、その姿は素直に可愛いと感じてしまい、その思いが胸にハートの弓矢が刺さったかのようになってしまう。
 過度の緊張にも似たものが全身を駆け巡り、少しでも気を抜けば襲ってしまいかねないほどだった。
『だぁぁぁぁ…いかんっ! ダメだダメだっ!!』
 は心の中で顔を振り、自分の理性を取り戻そうと必死になる。
 そして緊張でガチガチになった身体をぎこちなく動かし、の横へと歩き出す。
「あー、その………ごごご、ごめんな」
 との距離を縮める度に胸のドキドキは大きくなり、その横に来た時には、の頭は真っ白になり、何を言って良いのかも解らなくなっていた。
 ただを泣かせる寸前まで追い込んだのが自分と言うことは理解できたのか、一言だけ謝りの言葉を口にする。
 しかし過度の緊張のせいで、その言葉はとてもたどたどしい。
「あ……」
 声が聞こえて、初めてが自分の横に来ていることが解ったのか、はゆっくりと下にさげた顔を上げていく。
 頬は先ほど以上に赤らんでいるものの、その瞳は先ほどのように泳いではおらず、一点だけを集中するように見ていた。
『あぁぁ…がわいい〜…』
 再び頭の中で天にも昇ってしまいそうな気分になろうとした瞬間、意を決したのか隣にいるは、の身体に抱きついてきた。
 その力は決して強いとはいえないが、何故だかきつく抱きしめられているように感じる。
「えっ…ちょっ…」
 は突然のことに何が起こったのか解らないでいると、は大きな声を出してきた。
「…っ…俺のこと、抱いてっ!」
「えっ……」
「……」
 はそれ以上は何も口にすることはなく、ただを抱く腕の力を強くしていく。
 恥ずかしさもあるのか、顔を抱きしめるの胸元に埋め、出来るだけ見えないように隠しているようだった。
 はそんなのことを抱き返そうとはせず、呆然と立ち尽くすようになっていた。
 それは余りにもの嬉しさに、頭の中が完全にパニックになっていたからだった。
「っは! あ、その…。いいい、良いのか?」
 しかしすぐに我にかえり、は自分の身体に抱きつくに声をかける。
 出来るだけ平静を保とうと必死になっていたが、言葉はどこかぎこちない。
「…うん。なら、俺…何されても良いよ…」
 の声を耳にすると、今まで胸に埋めていた自分の顔を上にあげる。
 今までにない距離に、の顔がの前へとやってきた。
 頬を赤らめ、言葉にしなくても恥ずかしいのだと感じさせる表情…
 初めて見るの表情…自分しか知らない、の表情…
「うあっ! やば……がはっ!」
 だんだんと頭の中で考えていることが、表に出てきそうになる。
 それを抑え込もうとしたが、つい口から噴出してしまった。
「ちょっ、大丈夫?」
 突然のことにから離れ、心配そうな表情で声をかけてくる。
『やべぇっ…やべぇよっ!!』
「だっ…だだだだ、大丈夫だよっ! 全然っ、ぜんっぜん問題ないって!」
 自分のことだけを気にして伝えられることに、の心はさらにかき乱されてしまう。
 言葉をはっきりと言うことが出来ず、身体の動きも挙動不信になる。
 目に見えて、焦っているのが解った。
「…迷惑…だったかな? 俺…」
 そんなの姿を見ると、は再び顔をうつむけてしまい、落ち込んだ声を出してきた。
「あ…?」
「おかしい、よね…でも俺、が好きだから…凄い凄い好きだから…だから、に…抱いて、欲しくて…」
 言葉だけで、の切ない気持ちが伝わってくるようだった。
 のことが、好きで好きでたまらない…そんなの気持ちが…
 最後の言葉を言う時には、下にさげた顔をさらに横に背けていた。
 下を向いていても、恥ずかしさがあったからかも知れない。
『……』
 自分の素直な気持ちを口にしてきたの言葉に、の胸は急に落ち着きを取り戻す。
は本気で気持ちを伝えてきてるんだ…だからふざけちゃいけない…』
 心の中でそう思った瞬間に、不思議と焦りは消えていった。
「……俺も、だよ」
 は下をうつむいたままのの身体を優しく抱きしめながら、そう一言だけ口にする。
 いつもの自分だったら、間違いなく舞い上がっていたと思う。
 けれど今日は、静かにのことを抱きしめたいと思った。
「えっ……っ! んっ…」
 意識をしたつもりはない。気がついたときには、の唇に自分の唇を合わせていた。
 全身は緊張で硬くなっているものの、唇はとても柔らかくて温かい…
…」
「んっ…、っ…んっ…」
 今自分たちがしていることを確かめるように、何度も何度も口づける。
 そしての身体を抱くの手は、ゆっくりと衣服の下へと運ばれてゆく。


「ひゃっ、あっ!」
 は自分の上半身にの手が触れた瞬間、身体を大きくビクつかせて驚きの声をあげる。
「どっ、どうしたんだ?」
 素肌に触れれば多少なりとも驚くだろうとは思っていたが、の驚きようは の思っていた以上だった。
「あっ…の手、凄い冷たかったから…」
「えあっ…っ! あぁ…俺、冷え性だから、手が冷てぇんだ…あはははは」
 は思いだしたように自分の手を見つめ、照れ笑いを浮かべながら口にする。
「そ…そうなんだ…」
「…でもの身体に触ってれば、温かくなるかもな…」
 少しだけ口元を緩ませながら、にやけるような顔を見せ、僅かにはだけているの素肌に再び触れる。
「ひゃっ…あっ…」
 驚きの声こそ発したものの、先程のように大きくはなかった。
「…冷たい?」
「んっ…少し、だけ…」
 素肌に手を触れられ、は少しだけ恥ずかしそうな声を出してきた。
『…あぁぁ…〜…』
 顔つきこそ真面目だったが、 の心の中は完全に夢心地になっていた。
 とても温かくてスベスベとした、の肌の感触…そして恥らう表情。
 それだけでも、意識が遠のきそうになる。
の肌って、すっごいキレイだね…」
「んっ…そんなこと、ないよ…」
 の素直な感想も、は頬を赤らめながら否定する。
 やがて肌に触れる手はゆっくりと、上半身の突起部分に触れ始める。
「はっ…んんっ…」
 まだ冷たさの残るの手が乳首に触れた瞬間、は身体を一瞬だけひくつかせて驚きを表現してきた。
 しかしその後は、口から熱い吐息が漏れ出してくる。
「ここ…気持ち良いんだ…」
 意地悪そうな声を出しながら、は指先を使って、の乳首を愛撫し始める。
 今まで触れていた部位よりも若干硬さを持つ部分を指でつまみ、舐めるように動かしていく。
「んんっ…んっ、っふ…う…」
 の口からは熱い吐息の他に、喘ぎにも似た声が出てくるものの、その声はとても小さい。
 何かと思っての表情を見た瞬間、は気持ちよさを我慢しているのだとすぐに解った。
「…? 我慢しなくても良いんだよ。俺以外に、誰もいないんだから…」
「んっ…ふっ、んっ…」
 そう言っても、は口を開こうとしない。
 ただ赤くした顔を横に何度も振り、喘ぎ声を口にすることを否定し続ける。
「…そっか、じゃあ仕方ないな…」
 そんなの表情に、少しだけ意地悪をしてやりたくなった。
 もっともっと恥ずかしくて気持ちの良いことをして、無理やりにでも喘ぎ声をあげさせてやろうと思った。
 はにやけるようにそう口にすると、の着ている上着を一気に脱がせていく。
「わっ…わぁぁっ!」
 は突然のことに驚きの声をあげるが、はそんなことなど気にも止めず、上着を剥ぐように取ってしまう。
…」
 あらわになるの上半身…間近で見ることなど一生ないと思っていた姿が、目の前にある。
「あっ…?」
 その姿をずっと見ていたいとも思ったが、今はそれ以上にのことをいじめてやりたいと思った。
「凄い気持ちよくて、嫌でも声が出ちゃうかもねー…よっと」
 冗談交じりのような声を出しながら、はゆっくりとの上半身に自分の顔を近づけていく。
「ちょっ、さっ…あっ、くっ…ぁ」
 そして今まで手を触れていた部分に、今度は唇を持っていく。
 コリコリとした感触を、舌の上で撫でるように舐める。
「気持ちいい? …」
「あっ、っく…くっぅ…あっ」
 の顔をはっきりと見ることは出来なかったが、その声だけでも快感を我慢しているのだと解る。
「もっと、気持ちよくしてやるよ…」
 そう言うとは自分の唇を、ゆっくりと舌の方へと動かし始める。
「はっ…恥ずかしいよ、、…」
 キレイなの上半身を、の口が這うように動いていく。
 するとは小さな声で、そう言ってきた。
 言葉にこそしなかったものの、止めて欲しそうにも感じられる声だった。
 それでもは唇の動きを止めようとはせず、やがてはの下半身へと持っていかれる。
「えっ! っ…だっ、ダメだよっ!」
「…どうして…良いじゃん。…」
 のズボンに手をかけ、全ての衣服を脱がそうとする。
 しかしはさっきまでの小さな声ではなく、はっきりとした口調でそう言ってきた。
「だっ、だって…俺、俺…」
 再び泣き出しそうな声で、懇願するように言ってくる。
『うーん…やっぱり恥ずかしがるのは、止めた方が良いかな…』
 は心の中でそう考えながら、の顔に目を向ける。
 もう飽きるほど見ているのに、その恥らう表情はやはりとても可愛い。
『でもー…やっぱりしたいっ!!』
 自分の欲望は抑えることが出来ず、結局は無理やりに近い形でのズボンを一気に脱がせていこうとする。
「わっ、わっ…やめっ…止めてよっ!」
 は突然のことに驚きながらも、自分のズボンを脱がされないようにと必死になって引っ張る。
「黙って脱げってーの! よっと!!」
「わっ、わぁぁぁっ!」
 しかし今までに与えられた快感のせいで、は自分の手に力を入れることが出来ず、あっという間にズボンを剥ぎ取られてしまった。
『あぁぁっ…の、生まれたままの姿っ!』
「えっ、あっ…やっ、やだっ!!」
 完全な裸になってしまったの姿を、は鑑賞するように見る。
 その瞳は、まさにいやらしいと感じられるものだった。
「そんなにはずかしがらなくても良いじゃん。ほら、手をどけな」
「やっ…いやだっ…恥ずかしいよぉっ!」
 は自分の股間に両手を置いて、一番見られたくない部分だけを必死に隠そうとする。
「そんなに嫌がんなって…すーぐ気持ちよくなるからさ…」
 はそう言うと、の両手が置かれている部分に自分の顔を近づけていく。
 そして手を使って隠している部分の両腕をつかみ、ゆっくりと退ける。
「あっ…っ…」
 観念したのか思っていたよりも抵抗はなく、すぐにの下半身があらわになる。
 快感を与えられていたこともあってか、僅かだが大きくなっているようだった。
『…これがっ…の…』
 それを目にした瞬間、は自分の胸が以上に高まるのを感じた。
 唾液も必要以上に分泌し、それを飲み込む度に音が聞こえる。
「あっ…あんま、見ないでよっ…」
「えあっ…あ、あぁ…ごめんな」
 完全に夢見心地になっていたの言葉で我に返ると、ゆっくりと右手を動かし始める。
「…やっ、…? あっ…」
「…凄い、温かいな…のココ」
 その手は迷うことなくもう一つのを掴み、優しく握り締める。
 体温以上に熱い感触が、右手に伝わってきた。
「やっ…恥ずかしい、からっ…え? …はぁぁぁぁぁっ!!」
 そしてその部分を、は自分の口に含み始めた。
「んっ…んむっ…、気持ち良い?」
「あっ、はぁぁっ! くっぁ…んあぁぁっ!」
 の全身に、感じたことのない激しい快楽が襲い掛かる。
 先程まで与えられていた微弱な快楽とは比べ物にならなくて、は耐えられず大きな喘ぎ声を上げ始めた。
…もっと良い声出せよ」
「あっ…はぁんっ…あっ…ふぁぁぁっ!」
 は自分の口から唾液を流し、それを使ってのことを愛撫する。
 やがて先からも液体が流れ出し、それを知らせるかのよう、はわざとピチャピチャ音を立てる。
の声、スゲー可愛い」
 上目遣いでしか顔を確認できなくても、の目には快感に悦ぶの表情が見えた。
 それがより一層に、の口の動きを激しくさせる。
「あっ…はぁっ! はっ…あぁぁぁっ!!」
「んんっ! んっ…んくっ…」
 しかし次の瞬間口の中に、大量の液体が入り込んできた。
「あっ、はふっ…はふぁ…」
 それが何であるかは、言わずとも理解が出来る。
 はその流れてきた液体を口に含み、喉に流していく。
 僅かに粘着を持っているそれは、喉の途中で絡みそうになる。
「早いって、…」
 これからと思っていたにしてみれば、少しばかり拍子抜けしてしまったように感じていた。
「だっ…だって、我慢…出来なかったから…」
 の一言に対して、は申し訳なさそうに顔を下にさげてしまう。
「…初めてだった?」
「うあっ…うっ、うん」
 そんなに向かっては一言の質問をすると、恥ずかしそうに返事を返してきた。
『あぁぁ…、初めてなんだぁ…』
 その一言に、の心は再び舞い上がり始める。
「そっかそっか。初めてなんだー…」
 するとは最初の時のように、その言葉を嫌味ったらしく口にする。
「あっ…あ…」
 当然のようにも、より一層に頭を下にさげて落ち込みを表現し始めた。
『あぁっ…!』
 さらに大きくなる胸の高鳴りを抑えながら、はゆっくりとの所へと近づいていく。
「そっ、そんな気にすることないって…ぜーんぶ俺が教えてやるからさ」
「えっ…っ…んっ」
 そして触れる程度の優しい口づけをし、再びの身体を愛撫し始める。


 今度はさっきまでの優しい手の使いではなく、強い力を入れての身体に触れる。
「あっ、っつ…いたっ…」
 手の冷たさと僅かに感じる痛みで、は一瞬だけ顔を歪ませる。
 しかしは手の動きを止めることなく、ゆっくりとの下半身へと持っていく。
「すぐ…気持ちよくなるから…」
「えっ…あっく! くはぁぁぁっ」
 耳元でささやくような声を出すと、の右手はの秘部へと入り込んでいた。
 突然のことには驚き、そして強い圧迫感で身体が押し潰されそうな感覚に襲われる。
「…痛い? でも、すぐよくなるから…」
 の声はの耳元で、ささやくように伝えられる。
 それには興奮するの吐息も混じっていた。
 それはの全身から力の全てを抜き去り、自分の内部を弄られている痛みを緩和させているようだった。
「はっ、ふぅっ…はんっ、あっ…」
 少しずつ指の本数を増やし、そして動きも活発化させる。
 同時にの全身からは力がどんどんと抜けていき、の身体にしがみつくようになっていた。
 右手も左手も、まるで駄々をこねる子供のようにの服を引っ張る。
の中、凄い温かい…俺の手が冷たいから、より一層にそう感じるのかな?」
 は小さな笑みを浮かべながら、嬉しそうに右手を動かす。
「やっ…はっぁ…はっ、はぁっ…はぁ」
 熱い吐息ばかりがの口から漏れ、そしてはそれを間近で感じていた。
 快感による産物…それがより一層にの心を躍らせ、手の動きを自制できなくさせていく。
…可愛い」
「はっ…はぁぁっ…んっ、あっ…はぁっ…」
 やがて与えられる快感によって、の下半身は再び硬さを持ち始める。
 触れていないのにそれはヒクヒクと小さく動き、先からは液体が垂れ始めていた。
「おちんちんも、気持ち良い?」
  の表情も声も、まさに楽しんでいると感じられるものだった。
「んんっ…! ふっ…ふぁぁっ…」
 は否定をしようとしているのか、顔を動かして言葉を発しようとする。
 しかし全身に与えられる快感は、それを許してはくれない。
 言葉を出そうとしても、それは吐息によって全てが遮られてしまう。
「ここも…どんどん良い感じになってるよ…」
「あふっ…ふやぁ…んあぁっ」
 の秘部に入れ込まれた指の数はいつの間にか3本に増え、その全てが完全に身体の中に埋められていた。
…もう良い? 俺も…」
「ふっぁ…ふぁぁ…んんっ!! はぁ…はぁ…?」
 我慢の出来なくなったはそう口を開き、今までの身体に入れ込んでいた指を一気に抜いてしまう。
 するとは一瞬だけ身体をひくつかせ、不思議そうに顔を に向ける。
「…?」
「あっ…あの…」
 は言葉こそ発しはしないが、その瞳は何かを求めるようにを見つめていた。
「…あっ! ふーん…どうしたんだよ、。そんな顔して」
 その瞳の意味をすぐに感じ取ると、は再度をからかうようなことを口にする。
「えっ、あ…」
「…どうして欲しい? 俺にどうして欲しいんだ?」
 本当は解ってても、それ以上の言葉をから言おうとはしない。
「あっ…だから、俺っ…俺のっ…その」
 そんなの意地悪な質問に、はただもじもじするばかりだった。
 何が言いたいのかは、自身もわかっている。
 しかしその言葉だけは、恥ずかしくてどうしても口には出来なかった。
「…口で言わなきゃ解らないよー…」
 ニヤニヤと笑いながら、はそう口にする。
『あぁぁ…が、あんな顔してる…』
 とにかく楽しくて仕方がなかった。
 冷静な自分であればにこんなことさせはしないと思うはずなのに、今はとにかく困らせてやりたいと思う。
 恥ずかしがって、顔を赤くして、困っている姿を見るのがとても楽しい。
「どーして欲しいのかなー? 
 わざとふざけるような声を出して、のことをもっと困らせてやろうとする。
「だっ…だからっ…あのっ…」
 そんなの狙ったとおりに、反応を返してくれた。
…かわいいよぉ……』
 それがより一層に、の心を躍らせる。
「どーして欲しいのかなぁ…」
「あのっ…欲しい、です…」
 そのままの状態がずっと続いても良いと思っていたが、我慢が出来なくなったのか、の方から口を開いてきた。
 その声はとても小さくて、近くにいるの耳にも届くか解らないほどだった。
「んー? だからどうして欲しいのかなぁ?」
 しかしには、その声がはっきりと聞こえていた。
 それでもわざと聞こえない振りをして、にはっきりとした声で言わせようとする。
 そんなの声と態度はあからさまに怪しく、はたから見れば解りやすいといえる。
 ただ既に限界にきているには、それを見破れるだけの余裕はどこにもなかった。
「だから…俺、欲しくて…そのっ…」
『あぁぁ…が、欲しいって言ってる…』
「あー…もっとちゃんとした声で、はっきり言えよな」
 心の中では十分すぎるほどに満足しても、やっぱりそれ以上に言わせたくなる。
 もっともっとはっきりとした声で、恥ずかしい台詞を言わせたい…
 嫌われるかも知れないとは思いながらも、やはり欲望には勝てなかった。
「お、俺の…俺の中に…の…」
 そんなの隠した思いにも、は素直に応えてきた。
 発する声はだんだんと大きくなり、内容もはっきりとしてくる。
「…俺の何が欲しいの? ん?」
 外観は平静を装っていても、の心の中はもう破裂しそうなほどバクバクしていた。
 その言葉を、が口にしたら…口にしたら…口に…
「だからっ…の、俺の中に入れてよっ!! 我慢…できないよぉ…」
 そう思った瞬間、は大きな声でそう口にしてきた。
「うあぁっ……がはっ!!」
 心の中で抑えきれない衝動が身体を仰け反らせ、鼻からも僅かな血が流れる。
 鼻の下を少しだけ赤くしながら、はもう死んでも良いと思っていた。
「あっ、っ!! だ、大丈夫?」
 突然のことに驚いて、は心配そうに声をかけてくる。
「うあ…だ、大丈夫大丈夫…あははははは」
 乾いた笑い声を出しながら、その身体をゆっくりとへと近づけていく。
「あ…さ…んっ」
「…の望みどおりにしてやるよ」
 そして唇に軽い口づけを交わし、そう一言口にする。
「はやくっ…頂戴。の…」
 触れる程度のキスでも、今のには必要以上の気持ちよさを与える。
「急かさなくたって、すぐに入れてやるよ…」
 は冷静な言葉を発しながら、その心の中は完全に焦りでいっぱいだった。


 はその場に四つん這いになると、後姿をに向ける。
『はぁぁっ! が、俺の前に尻を向けてる…』
 夢にまで見た光景を、今こうして実際に目にする…それだけで意識が遠のきそうになる。
? …恥ずかしいから、あんまり見ないでよ…」
 身体に感じる視線を感じて、はそう口にしてきた。
「あ…あぁ。わりぃな…」
 必死に高鳴る鼓動を抑えながら、は下半身をあらわにさせる。
「あっ…」
 そして迷うことなくの秘部へとそれを当てて、ゆっくりと押し込むように入れていく。
…っぁ」
「はっ…あっ…あぁぁぁっ!!」
 だんだんと大きくなる、指を入れられた時以上に感じる全身の圧迫感。
 の顔が、苦しそうに変化していく。
…っ、全部入ったよ? 解る?」
「はっふ…、っのっ…熱いよぉ…身体、変になりそう…」
 しかしその苦しみも、喜びとして感じているようだった。
 そんなの声に安心して、はゆっくりと腰を動かし始める。
…っく…っ!」
 は全身に走る物理的な快感と、の中に自分を入れ込んでいる嬉しさで、入れただけでもイッてしまいそうになる。
 しかしその感覚を、必死にこらえていた。
 流石にすぐイッてしまうのは、漢として情けないと思ったからだった。
「んあぁっ! あっ、っ…あっ、やぁぁっ…んぁぁっ!」
「くっ…ん中、スゲーよ…」
 はこれまでにない快感を、全身を使って表現する。
 下半身も気持ち良さそうに、ピクピクと動いて反応していた。
 はそれを手に取り激しく動かしながら、同時に後ろも攻め立てる。
 前と後ろに感じる大きな快楽に、は喘ぐしか出来なくなっていた。
っ…俺、俺もうっ…あっ、はぁっ…くっ、ぁん!」
「イきそう? のココ、凄いピクピクしてきた…」
 の右手での下半身は暴れるようにひくつき、絶頂が近いことが解った。
「ダメっ…俺っ、俺っ…っ! ふぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 の大きな声にあわせるよう、の右手には温かくてドロドロとしたものが付着してきた。
っ、…っく、んんっ!!」
 もまた、絶頂を迎える。
「うぁぁぁ…の…いっぱい、俺の中に入ってる…」
 入れ込む中へと欲望の全てを注ぎ込んでいくと、はそれを嬉しそうに受け止めていた。


 ことの後は二人で裸のまま、布団の中へと潜り込んでいた。
 の肩に寄り添うように、身体を委ねてくる。
「ねぇ……」
「どどど、どうした?」
 かけられた言葉に対して、は所々裏返ったような声で返事を返す。
「どうしたの? なんか…嫌がってない?」
「べべっ…別に嫌がってなんか…」
 身体を重ねている最中は無我夢中になっていたせいかも知れないが、改めてこうして裸のが隣にいると思うと、異常なまでに緊張してしまう。
 常識で考えたって、ありえないと思っていた環境…それが今ここにある。
「本当…かな?」
「ほほっ、本当だって…本当。本当」
 目は完全に泳ぎ、の方を見ようともしない。
 その身体を目に収めるだけで、心臓が止まってしまうような気がした。
 それくらい、の心はいっぱいいっぱいになっていた。
「…ふーん。じゃあ…」
 は最初、に嫌われたのかと思っていた。
 しかし時と共に、それが緊張でそうなっているのだと気がつく。
 すると先程まではに意地悪な言葉をかけていたのに対し、今度はその立場が逆転する。
は、俺のこと好き? 俺と、またえっちしたい?」
「うええっ!! そ、それはっ…」
 返事する回答は決まってる。ただその返事をはっきり言うのは、何故だか出来なかった。
 これ以上に、奇跡が起こるとは思えなかったからかも知れない。
「ねぇー…答えてよー」
 甘えるような声を出しながら、素肌をの身体にこすりつけるようにしてくる。
「だからっ…そのっ…」
「だから?」
「だからそのっ…」
 似たような言葉が繰り返され、会話は先へと進まない。
「だからばっかじゃ進まないって! ちゃんと答えてよ!」
 はっきりとした返事を返してはくれないに、の怒るような声が浴びせられる。
「え、ぇう…そっ、そんなの…すっ、好きに決まってるじゃん! えっちは…ま、また…さしてくれんなら…」
 するとはそんなに押されるままに、恥ずかしがりながら横を向いてそう口にする。
「…うんっ!! 俺もが大好きだよっ!!」
「うっわ…」
 その返事を聞くとは満面の笑みを見せ、の胸に勢い良く飛びつき、そして力強く抱きしめる。
「だからまた俺とえっちしてねっ!! っ!!」
 そして力強い声で、嬉しそうにそう返事をかえしてきた。
『ま…また…とえっちが…』
 夢なら覚めないで欲しい…はそう思いながら、のことを抱きしめていた。