貴方を思って…
「んっ…んっ、っふ…ぁ」
は自分の室内に置かれているベッドの上で、下半身だけをさらけ出して横たわっている。
右手にはもう一人の自分を持ち、ゆっくりと上下に動かしていた。
「ふぅっ…ふぁ…、さぁん…んっ…」
右手の先は既に先走りの液体で濡れ、手が動くたびにニチュニチュと音を立てる。
意識こそしてはいないものの、その音が耳に入るたびに、の手の動きは激しさを増していく。
「あふっ…僕、僕っ…あっ…はぁっ…」
時折寂しそうな声を出しながら、絶え間なく自分自身を愛撫する。
「さんの…さんのっ…」
やがては熱を持った自分から右手を放し、今度は左手に持ち替える。
そして先走りでぬめりを持つ右手を口元に持っていくと、その指先に大量の唾液を絡めながら舐める。
「んっ…んっ、っく…んっ」
慣れない左手で愛撫する自分自身で快感が小さく、物足りなさを感じてしまう。
中途半端に小さくなる快楽に、は焦るように指を舐める。
「はやくっ…欲しいよぉ…」
自分の右手の指に溢れかえるほどの唾液をつけると、迷うことなく下半身へと運んでいく。
「はやく…欲しい、よぉ…」
指先に感じる感触を頼りに、自分の身体を舐めるように動きまわる。
「ここにっ…ここに…っ! はぁぁぁぁっ!!」
は自分の秘部を指先で探し当てると、迷うことなく指を入れ込んでいく。
「あっ、はっ…はぁぁっ…もっとっ、もっと…」
微弱だった快楽が、突然に大きなものへと変化する。
それは萎えかけたもう一つの自分自身を、再び硬くさせていく。
左手の中でムクムクと成長し、ピクピクと痙攣するように動き始める。
「あっ…あぁんっ! もっと…もっとぉ…」
秘部に入れ込んだ指の数はすぐに増え、その指先の動きも活発になる。
快楽を欲する気持ちが、無意識に指先を動かしていた。
「もっと…、さんっ……さんっ!」
同時には、の名前を口にし始める。
目の前にいるはずのない人物の名前を何度も呼びながら、自分自身を愛撫する。
「さんの…さんのおちんちんがっ…僕ん中にっ…はぁぁっ!」
は瞳を閉じ、大好きなが自分を抱いてくれていることを想像していた。
今自分は、に抱かれてる…が今、自分とひとつになっている…
そのシチュエーションを頭の中で妄想しながら、オナニーを続ける。
「さんのっ、凄いよぉ…はぁっ、大きくてっ、僕の中…滅茶苦茶に…んぁぁっ!」
それを本当のことだと感じさせる為に、の右手の指先は、言葉に合わせて動く。
指と指との間を大きく開いたり、無造作に動いたり…
それがの妄想をより一層に膨らませ、現実に抱かれているのだと思う気持ちを大きくさせる。
「あっ、僕っ…もうイッちゃ…はっ、あっ…ふぁぁっ!」
秘部に指を入れたまま、は全身を引くつかせ始める。
「もっ…だめっ…、さんっ…んあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
我慢の出来なくなったは、大きな喘ぎ声と共に絶頂に達する。
破裂寸前だったもう一つのからも、熱い液体が放出される。
与えられた快感の大きさからか、それとものことを思っていたからなのか、放心状態になるの顔にまで勢い良く飛びかかってきた。
「はぁっ、はぁっ…はぁ…」
少しずつ落ち着きを取り戻しながら、は閉じた瞳を開けていく。
いつも見ている、自分の部屋の屋上が瞳に映る。
そして顔をゆっくりと起こし、今まで快楽を感じていた部分に目を向ける。
そこには快楽によって汚れた、自分の姿があるだけだった。
「いるわけ…ないよな…」
の姿が、あるかも知れないと思った。
夢や妄想じゃなくて、本当に抱かれていると思って…
でも現実は、の目にはっきりとした真実を映してしまう。
「……さんっ…」
はそのまま横になると、自分の枕に顔を埋めてしまう。
「さん……さんっ…」
やがて静かな部屋の中に、の涙声が響き始める。
顔を埋めた枕に、少しずつ涙のシミが広がっていく。
「ひっく…さんが欲しいよ…僕、さんっ…」
は悲しそうに涙を流しながら、身体を丸めて布団の中へと潜り込む。
そして自分でも気がつかないうちに、大好きなのことを思いながら、今日も一人寂しく眠りについていた。