+brotherly+
+affection+
会いたい人
家の中に入り、自分の部屋に向かうと学生服を脱ぎ、普段着に着替える。
そのまま台所へ向かうと夕飯の準備が出来ていた。
「まーたカレーだし」
少しあきれた表情で拓斗は言う。
母親は色々とやっていることがあるらしくて、夜はいないことが多い。
なので夕飯はだいたい一人で食事をすることが多く、
場合によってはコンビニ弁当の日も少なくない。
時々母親が食事を作ることもあるが、その時は決まってカレーだった。
「ったく、もうちょっと変わったもん作れねーのかな」
そんなことを言いながら適当に夕飯を済ませ食器を片付けると、
居間へと移動しテレビを見る。
「…なんか面白くないな」
いつもなら笑ってみている番組が全然面白くなかった。
「そだ、まだやってないゲームとか沢山あったんだよな」
そう言うと今度はゲームを始める。
けれどやれどもやれども、やる気が全然起きてこない。
「なんだかつまんないな…」
そのままゲーム機の電源を切ると、自分の部屋に戻りベッドで横になる。
「なんか疲れてんのかな。今日はもう寝よ…」
部屋の電気を消し、目をつぶる。
それでも自分の頭の中はずっと同じことがめぐる。
「会いたい…」
一人でテレビを見ても面白くない。
一人でゲームをしても面白くない。
一人で寝ていても、そのことばかりが頭から離れない。
「会いたい…兄貴に会いたい…」
寝ようと思っても全然寝られない。
そのことばかりが頭にあって寝られなかった。
時間だけがどんどんと過ぎていく。そしてどんどんと自分の心が寂しくなっていく。
考えれば考えるほど寂しくなるのは解ってる。
けれど考えずにはいられなかった。
「会いたいな…早くに会いたい…」
気がつくともう深夜の1時になっていた。
時間だけが過ぎ、どうしようもない寂しさだけがつのる。
「兄貴…確か近くのコンビニでバイトだよな…」
拓弥は色々な場所でバイトをやっているから、
どんなバイトをやっているのかは良く知らない。
けれど友人に来てくれって言われたってことは、
きっと近くのコンビニだってすぐに解った。
拓弥のバイト先で友人がいるのはかなり限られていて、
拓斗もそれを良く知っていたからだ。
「ちょっとだけ…行ってこようかな…」
そんな思いを持ちながらも、
もしかしたら帰ってくるかもしれないと言う思いもあった。
そうやってまた1時間、2時間と時が過ぎていく。
時間はもう3時になっっていた。眠いはずなのに全然眠くない。
いつも近くにいる人に、
こんなにも会いたいという気持ちを持ったのは初めてだった。
とても会いたくて、会いたくて…
「…ちょっとだけ…行ってこよう…」
そう言うと拓斗は立ち上がり、自分の部屋を後にする。
家の鍵を閉め、ゆっくりと近くのコンビニへ歩く。
どうしても会いたかった。その思いだけだった。