+brotherly+
+affection+
会いたい人
もう夜中の3時。家の明かりは全て消え、電柱の明かりだけが明るい時間。
そんな時間に外出するのは初めてだった。
けれど拓斗にはそんなことは全然気にならなかった。
胸にある思いはただひとつだけで、それ以外はもう何も考えられなかった。
「えっと、確か此処だよな」
暗い中に白い蛍光灯の明かりが見えてくる。
けれどその明かりに近づいていくと、拓斗の足は少しずつ遅くなる。
家から出た時は早足だったのに、明かりを前に一歩一歩出す足が遅くなる。
「なんか凄い緊張する」
いつもならば普通に行っているはずのコンビニなのに、今日はとても緊張する。
胸がドキドキして、身体が少し震える。
「別にいつも通りにしていれば良いんだよな。
うん、たまたま寝れなくて来たって感じで良いんだよな。
それでたまたま兄貴がいたーみたいな感じで良いんだよな」
一人自分を納得させるように言いながら一歩、また一歩と明かりに近づいていく。
それでも時々その足も止まったりもする。
「だけどそれじゃあ逆に怪しまれるかな」
そんなことを考えながら、店の前をうろうろと歩き回る。
夜だからこそ怪しまれないが、昼間だったら間違いなく怪しまれているだろう。
「考えてもしょうがない!!行こっ!!」
覚悟を決めて店の中に入る。
店の中には誰もいなくて、レジの前には拓弥と友人が話していた。
客に気づくと話を止め挨拶をする。
「あっ、いらっしゃいませー…って、拓斗じゃん」
拓弥はその客が拓斗であるとすぐに気がついた。
「えっあっうんっと、兄貴ここでバイトやってたんだ」
まるで台詞を棒読みするかのように拓斗は言う。
「ぷっ…お前、なに言ってんだ?」
拓弥はそのわざとらしい言葉に、苦笑いしながら聞く。
拓斗自身も自分の発した言葉のことにすぐに気がつく。
緊張はピークになり、全身の感覚がおかしくなっているのが解る。
「おい、お前の知り合いか?」
とっさに拓弥の隣にいた別の店員が拓弥に質問する。
「あん?俺の弟だよ」
「弟ぉ?へぇ、お前と全然似てないじゃん」
「…ほっとけ」
別の店員が拓斗の前に来ると、顔をマジマジと見る。
「あっ、あのっ」
「ふーん、本当にお前の弟かよ」
「えとっ、そのっ」
拓斗は誰か解らなず、またその店員の格好もあってかさらに緊張する。
髪は金髪で、耳にはピアスが数え切れないほどついている。
言ってしまえば、あまり近づきたくはないと思う人物だった。
そう思う拓斗に店員は気がついたのか、改めて挨拶をする。
「ん?あ、わりーわりー自己紹介とかしてなかったな。
玲於奈ってんだ。呼ぶときゃレオで良いぜ。宜しくな、拓斗君」
顔つきに似合わず、礼儀正しく挨拶をする。
「えっあ、よっ宜しくです。ってなんで俺の名前知ってるんですか?」
「ん?あぁ拓弥から色々聞いてるからな。
自慢の弟だの、自分のことみたいに言ってくるからさ」
拓弥の方を見ながら玲於奈は言う。
「あ、兄貴が?」
「そ、あの馬鹿タクがいっつも言ってくっからさ」
馬鹿タクと言われてちょっとムッっとした。
自分の好きな人のことを少しだけど悪く言われたのだから、
いい気分のするものではない。
しかしさっきのように拓斗の気持ちに気がついたのか、玲於奈は心配そうに聞き返す。
「っと、怒ったかな?」
近づきがたい格好とは裏腹に、とても優しそうな顔だった。
「あっ…いえ、そんなことないです」
「そか、なら良いんだけどな」
少しホッとした感じで玲於奈は言う。
「おいレオ、あんま人の弟いじめんなよ」
少しだけマジな顔をしながら、今度は拓弥は玲於奈に言う。
「いじめてないって、なっ拓斗君」
そう言うと拓斗の頭を強くなでる。
「わっあ」
「だーかーらー、そう言うのをいじめてるって言うんだろ」
拓弥は拓斗を玲於奈から引き離す。
「いじめてないって。お前マジブラコンだな」
少しあきれた表情をしながら玲於奈は言う。
「良いんだよ〜。拓斗は可愛いもんな〜」
拓弥は玲於奈のことなど気にも止めず、拓斗を抱きしめ離さない。
「アホくさ。俺ここにいっからさ、話あんなら裏でしてくれねぇ?
拓斗君その為に来たんだろ?」
玲於奈はそう言うが、拓斗は2人がバイト中であることは解ってた。
「でもっ、兄貴もバイト中なんでしょ?」
心配そうに聞く拓斗に玲於奈は少し笑いながら言う。
「気にしなくても良いって。どうせ客なんてろくに来ないんだからさ」
「わりーなレオ」
「気にすんなって、もともとバイトに誘ったの俺だしな」
「すっ、すみません」
拓斗はぺこりと玲於奈に頭を下げる。
「良いって良いって、兄貴と仲良くな」
少しにやけながら玲於奈は言う。
「んじゃこっちな」
拓弥は拓斗を連れて、裏の方へと行く。