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+affection+
秘密


午後の授業は寝ることなく、普通に受けることが出来た。
「おい!!瀬田!!」
「えっ?あっ、はっはい!!」
「ボーっとしてるんじゃない」
「す、すみません」
けれどやっている授業なんて全然見てなかったし、聞いてもいなかった。
昼間にあったことを考えていて、ずっと胸が痛くて仕方がなかった。
『智樹は、兄貴のことが好き…俺も兄貴のことが好きで…』
自分はどうしたら良いのか、そればかりを考えていた。
3時を過ぎる辺りになると、さっきまでの快晴が嘘のように大雨が降りだしていた。
「雨、降ってきてたんだ」
ずっと考えごとをしていたせいか、雨が降っていることにすら気づかなかった。
授業も終わり、帰宅の準備をしていると智樹がやってくる。
「よっ、今日雨降って部活休みだって言うから一緒に帰ろうぜ」
「あ、うん…」
「?どうしたんだよ。なんか元気ないじゃん」
なんだか智樹と目を合わせることが出来ない。
それにこうして智樹の近くにいるだけで、胸がとても苦しくなる。
出来ることなら智樹といたくない。少しだけそうも感じていた。
そのせいか、拓斗は何を話して良いのかわからず無言になってしまう。
いつもならば『早く帰ろう』の一言くらいは言うのに、今日は何も言えない。
そんな拓斗に智樹も違和感を感じていた。
「マジどうしたんだよ…どっか調子悪いのか?」
心配そうに聞いてくる智樹に、さっき以上に自分の胸が痛くなる。
自分を心配して優しくされるたび、隠していることへの罪悪感が強くなっていく。
何か言わなきゃいけない。だけど言葉が出てこない。
『辛い。智樹といるのが凄く辛いよ…』
そう思ったとき、目から涙がこぼれそうになる。
すると目の前に純哉が来ているのが見えた。
「あ、純哉…」
拓斗がそう言うと、智樹は後ろを向き警戒する。
「よ、どうしたんだよ」
いつもなら智樹に飛び掛ってくる純哉だが、今日はいたって普通にやってきた。
「あ、なんか拓斗が調子悪いみたいで…」
智樹の言うことに、拓斗は慌てて否定する。
「そっ、そんなこと無いって。いつも通りだって」
純哉が来てくれたおかげで、考えていたことを少しだけ忘れられた。
『また純哉に助けられた。』そんな気がした。
「ふーん、まぁ良いや。
あのさ、聡史先輩がちょっと用あるから、急いで部室に来てくれってさ」
「え?先輩が?」
「あぁ、俺も呼ばれてっから、早く来いよ」
智樹に言うことだけ言うと、純哉はすぐに行ってしまう。
「なんだろな。あ、わり、俺ちょっと行ってくっから」
「あ、うん」
「んじゃまた明日な」
智樹も急いで教室を後にする。
智樹も純哉もいなくなり一人になると、少し落ち着くことが出来た。
それに正直一人で帰れることが嬉しいと思った。
当然だけど自分の胸の痛みは変わることが無い。
だけど智樹と一緒にいる時よりはずっと楽だった。
今は少しでも楽な方を選びたかった。それだけだった。


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