+brotherly+
+affection+
自分の気持ち


「拓斗…とりあえず家入ろう…」
泣き声が収まった辺りで、拓弥は拓斗にそう聞く。
「…うん」
拓斗は雨で声がかき消されてしまうような小声でそうこたえると、
拓弥に支えられるように肩を寄せてゆっくりと家の中へと入っていく。
「ちょっと待ってな。タオル持ってくるから」
そう言うと拓弥は家の奥のバスルームから、
少し大きめのバスタオルを持ってくる。
「ほらよっ」
「……」
拓斗は渡されるタオルを無言で受け取ると、水の滴り落ちる部分だけを拭く。
そしてタオルを持ったままおぼつかない足取りで、自分の部屋へと戻っていった。
「あっ…拓斗…大丈夫か?」
そう聞いてくる拓弥に、拓斗はわずかな笑みを見せながら言う。
「うん…大丈夫…」
ゆっくりと自分の部屋へと向かう拓斗に、拓弥は何かを話そうと思う。
しかし何を話していいのか解らなく、
そんなことを考えているうちに部屋のドアが閉まる音が聞こえてきた。
「……」
その音が聞こえた時、拓弥は無意識のうちに拓斗の部屋の方へと向かう。
「拓斗ー」
ドアをノックしいつも通りの口調で名前を呼ぶ。
しかしドアの向こうからは何の反応も無く、ただ強い雨の音だけが廊下に響く。
「…入るぞー」
少し小さな声になりながら、部屋のドアを開ける。
覗き込むようにしながら部屋に入ると、
ベッドの上で座り込み下をうつむいている拓斗がいた。
「拓斗…」
「あ…兄貴…」
拓弥に顔をわずかに向けるが、再びすぐに下をうつむいてしまう。
そんな拓斗に、拓弥はゆっくりと近づいていく。
「拓斗…髪もちゃんと拭かないと風邪引くぞ…」
拓斗の髪はまだ濡れたままで、時々頭から床に水滴が滴り落ちていた。
「ほら、これ…」
拓弥は自分の持っていたハンドタオルを、拓斗の頭の上からかぶせる。
しかし拓斗はそれにすらも反応しようとしない。
「…横…良いか?」
拓弥がそう聞くと、拓斗は小さくうなづいてこたえる。
それに気がつくと、拓弥はゆっくりと拓斗の座るベッドの横へと座る。
拓斗はまだ濡れたままの学生服を着ていて、
その冷たさが時々自分の身体に伝わってくる。
「拓斗…着替えないと…」
拓弥の言うことに、拓斗は全くといっていいほど反応をしない。
それからはお互いに無言が続く。
部屋にはずっと、外で降り続ける強い雨の音だけが鳴り響いていた。


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