+brotherly+
+affection+
自分の気持ち


外の雨はやむことがなく、さっきと同じように大きな音を立てている。
部屋自体も真っ暗に近くなり、周りに何があるのか良く解らない。
けれど今自分は拓弥に抱きしめられている…それだけは解っていた。
「兄貴…」
「どうした?」
「ん…なんでも…」
拓斗は時々確かめるように、拓弥に聞く。
まだ全身に受けた雨水で乾ききらない全身は、まだ冷たさが残る。
しかしそれがより一層、拓弥の温かさを拓斗に与えていた。
「なぁ…拓斗…」
暗い部屋の中で、拓弥は自分の胸に拓斗を抱きながら聞く。
「ん…何?」
「お前は…智樹のこと好きか?」
「えっ…」
「智樹と…一緒にいたいか?」
そう聞いてくる拓弥に、拓斗はすぐに返事を返す。
「うん…俺智樹のこと好きだから…大切な親友だから…」
「そっか…」
暗くて周りは全くと言っていいほど見えない。
しかしなんとなく拓弥の顔に、笑顔が見えたような気がした。
拓弥は自分の額を拓斗の額につけながら話す。
「なら大丈夫だよ…智樹だったら解ってくれるよ」
「けど…」
否定しようとする拓斗の声をさえぎるように、拓弥は話し続ける。
「お前は智樹のこと、大切なんだよな…好きなんだよな…」
「…うん」
その返事を聞くと、拓弥は再び暗闇の中で笑顔を見せる。
「だったらきっと大丈夫だよ…智樹ならきっと解ってくれるよ…」
実際どうなるかなんて解らない。
けれど拓弥の言ってくれる言葉のひとつひとつが、
自分の心を安らげてくれるのが解る。
「…そう…だね…」
小声でそう拓斗がこたえると、拓弥は自分の口を拓斗の唇に近づける。
そしてそっと口づける。
「あっ…んっ…」
既に自分の全身を拓弥に預けていた拓斗は、
なされるがままなようにベッドに押し倒される。
しかし自分が何をされるのか解った瞬間、
拓斗はとっさに両手を前に出しそれを拒否する。
「おっわ…ってー、どうしたんだよいきなり…」
拓弥は体勢を崩し、倒れるようにベッドに横になる。
「あっ、ごっゴメン…だけど今は…出来ないよ…」
今の状態で拓弥に抱かれることは、
本当に智樹を裏切ることのような気がした。
ここで拓弥に抱かれなかったからといって、
今までに抱かれたことがなかったことに出来る訳じゃない。
だけど今は出来ない…そう思った。
「ゴメン…兄貴…」
下をうつむきながら言う拓斗に、拓弥はその気持ちに気がつく。
「…拓斗がそう言うんじゃ、俺も我慢だな」
残念そうな表情の中に、笑顔交じりの顔で拓弥は言う。
「ゴメン…」
「…気にするなって。智樹のこと…大切なんだろ?」
「うん…」
「解ってっから大丈夫だって。なっ!」
拓弥はさっきのような真面目な口調ではなく、
とても元気な話し声をあげる。
それにつられるように、拓斗もまた笑顔を見せる。
暗い部屋なのに、お互いの顔がまるで見えているかのように全てが解っていた。
「さてと、俺そろそろバイト行かなきゃならないけど…もう大丈夫か?」
拓弥はその場に立ち上がり、拓斗の方を向きながらそう言う。
「っあ…」
すると拓斗は言おうとしたことを止め、口ごもる。
それに気がついた拓弥は、自分の顔を拓斗に寄せながら聞く。
「どうしたんだよ。なんかあるなら言ってみな」
兄貴に迷惑がかかると思っていたから言えないと思った。
けれど今は…今だけはどんなことをしてでも甘えたい…拓斗はそう思った。
「…あと…あともう少しだけ…横、いてくれないかな?」
何もしてくれなくてもいい、ただ横にいて欲しい…
誰でも良いのではなく、拓弥にいて欲しいと思った。
「…解ったよ」
拓弥は笑みを見せてそう言うと、再び拓斗の横へと座る。
外は雨ばかりで嫌な感じなのに、
自分のいる場所だけはとても心地良い空間が広がる。
「ありがとう…兄貴…」
気がついた時には、拓斗は拓弥に寄りかかるようになり、
そしてそのまま眠りについてしまっていた。


[1]Scean4
[2]+Back+