+えっち+


「あー…疲れた」
瑞樹は一人でそう言い、疲れた表情をしながら部室に向かって歩く。
周りからは人の気配は何もなく、自分以外の姿は見当たらない。
「遅刻したからって、片付け全部一人でやらせることねーよなー…」
歩きながら自分の身体に目を向けて、着ているサッカーユニフォームについている灰色の砂汚れを手で払いながら愚痴をこぼす。
今日は部活への参加に大きく遅刻をしてしまった為、瑞樹は終了後の片づけを一人でやらされるハメになっていた。
当たり前のように手伝ってくれるような人間は一人も居なく、部活が終わってから片付けが終わるまでに一時間以上もかかってしまった。
終わった時にはまだ青い空が見えていたのに、今ではもう赤い色しか見えない。
「はぁ…愚痴っても仕方ないか。早く着替えて帰ろう」
自業自得であると解っている瑞樹はそれ以上口を開くことなく、黙って部室へと向かって走り出す。
「…誰もいねぇよな、そりゃ」
プレハブ式の部室の近くに来ても、中から聞こえてくる音は何もない。
いつもなら大勢いる部員の声が遠くからでも聞こえてくるはずなのに、今は完全に静まり返っている。
「あ、でも明かりついてる」
ドアの小さなガラスからは、室内蛍光灯の白い明かりが漏れていた。
一瞬だけ中に誰かがいるのではないかと思い、瑞樹は少しだけ嬉しくなる。
「…きっと最後の奴が消し忘れたんだろうな」
しかし人のいるような気配は全く感じることが出来ず、瑞樹はガックリと肩を落として部室の中へと入っていく。
「お疲れ様でしたー」
部室に戻ってくる時は必ず言う言葉を、静まり返る部室に向かって大声で言う。
「…遅かったじゃないか」
「えっ?! あ…せん、ぱい?」
すると誰もいないと思っていた室内からは、瑞樹の言葉に対する返事が返ってきた。
驚いて下を向いていた顔を上に上げると、そこには部の先輩である大貴の姿があった。
瑞樹よりも随分と先に戻っていたはずなのに、その格好はユニフォームのままで、学生服に着替えてもいない。
「先輩、どうしたんですか?」
何故目の前に大貴がいるのか解らず、瑞樹は不思議そうな顔をしながらそう質問する。
「…いや、一応はキャプテンだし、部員が全員帰るのを見届けなきゃいけないからな…」
そんな瑞樹に対して、大貴はいつもと変わらぬ真面目な表情をしながら言ってきた。
「あ、す…すみません。俺の片付けが遅くて…」
その言葉に瑞樹は、自分のせいで大貴の帰りを遅くさせてしまったと思って頭を下げる。
「いや…構わない」
「すみません…」
どうして帰る準備をしてないのか、いるのになんで手伝ってくれなかったのかと聞きたかったが、瑞樹はそれ以上のことを大貴に聞こうとはしなかった。
誰が見ても自分が悪いのだと解る以上、深い詮索を出来る訳がないと思い、聞くことができなかった。


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