+tentacle2+
真っ暗闇な森の中を、ジュンは道を確認するように歩いていく。
視界は最悪で、暗闇に順応した目でもうっすらとしか先が見えない。
「うぅぅ…暗いなぁ…道は、合ってるよな」
昼間のまだ明るい時間に、ジュンは一度この道を通っており、その時に歩いた道のことを思い出しながらほとんど先の見えない場所を歩く。
「おっかしーな…そろそろ出口についてもいいはずなんだけど…」
昼間にこの場所を通った時には、30分としないで抜けることが出来た。
しかし今はこの森に入って一時間以上に歩いているにも関わらず、暗闇以外は何も見えてこない。
先を見渡しても黒々とした樹木ばかりしか見ることが出来ず、今自分が歩いている道が道であるのかも怪しい。
それでも出来るだけ歩いた時に平らに感じる部分を頼りにしながら、一人で森の中を歩いていた。
「…何も、見えないな…」
上を見上げても月や星はもちろん、空を見ることすら出来ない。
あるのは数え切れない木々の葉ばかりで、外界のことは全てがシャットアウトされていた。
「…やっぱり…道間違えたかな…」
ジュンはその場から引き返そうとも思い、後ろを向いて戻ろうとする。
しかしそこには自分がさっきまで見ていた景色と、全く同じ光景が広がっていた。
「……行くしかないか…」
前後左右に目を向けても、どこも同じに見えた。
先に進むのも引き返すのも同じだと直感で感じ取ったジュンは、前へと向いて歩き出す。
「…こんなことなら、遠回りして帰れば良かったよ…」
街から自分の家へと向かう道はもうひとつあり、そちらは普通の道ではあるもののジュンの家へは非常に遠回りになってしまう。
出来るだけ早く家に帰りたいと思っていたジュンは、迷うことなく近道の出来る森の道を選んでいた。
それに今まで何度もこの森を通ったこともあり、特に気に止めることはなにもない。
「はぁ…やっぱ夜は止めたほうが良かったな…」
しかし今までは明るかったからこそ安全に通れたのであって、夜の暗い時間にこの場所に入ることは初めてだった。
もちろんいつもと違うとは解っていたし、少しは注意して歩いているつもりでいた。
けれど自分の予想をはるかに超える暗闇を前にして、ジュンは今になって後悔の念にかられる。
「あー…疲れた。少しやすもう…この辺なら、大丈夫そうだしな…」
ジュンは手探りで周りの木々に手を触れて、座れそうな場所を探しだす。
そして丁度良い場所を見つけると、その場へと腰を下ろす。
「はぁ…疲れた…」
ジュンがそう言っても、周りからは何の反応もない。
目の前には永遠とも思えるような暗闇と、異常なまでな沈黙。
人の気配はおろか、昼間に感じた動物の気配すら感じられなかった。
まるで自分一人だけの世界にいるような感覚に、ジュンは突然恐怖を感じ始める。
今まではひたすらに歩いていたからこそ、恐怖や寂しさといった思いを感じずにいた。
しかし腰を下ろし、周りの状況を落ちついて見たとき…自分が今とんでもない状況にいるのだと痛烈に感じる。
「…大丈夫、だよ…ここはそんなに広くないし、それに少しでも明るくなればすぐ…」
全身に感じる怯えを抑えこむよう、自分に言い聞かせながらその場で身体を丸める。
けれどどんなに言い聞かせても、一度感じた怯えは簡単には収まらない。
「…あと少し歩けば、出口につくかもしれないな…」
どんどん大きくなる怯えから逃げ出すかのように、ジュンは休憩をすぐに止めてその場に立ち上がる。
そして全身の怯えを忘れるように、先の見えない道を歩き出していた。