+tentacle2+


「…やっぱり、ダメか…」
それからもジュンは歩き続けるが、視界に変化は全く見られない。
先程少しだけ休んだものの、もう数時間歩きっぱなしでいたジュンの足は、感覚があるのかも解らなくなっていた。
「…こわいよ…」
180度見回しても広がる暗闇と、歩けなくなる自分…そして人や動物の気配すら感じられない状況に、ジュンはそう一言言って涙を流し始める。
「こわいよぉ…こわい、よ…」
しかしジュンが涙をぽろぽろと流し出した瞬間、辺りが突然ざわめき始める。
遠くで誰かが歩いたかのように、ザワザワと木の葉の揺れるような音が聞こえてきた。
「誰か…いるの?」
静か過ぎて嫌でも耳に入る音に、ジュンは少しだけ嬉しい気持ちになる。
人ではなく、自分を襲うかも知れない動物でもなんでも良かった。
ただ自分が一人ではないと感じられたこと…それが嬉しかった。
そしてジュンは迷うことなく感覚のなくなりかけた足で、その音が聞こえた方へと歩き出す。
疲れや怯えがまるでなくなってしまったかのように、ジュンの表情は明るくなっていた。
「はぁっ…はぁっ…」
自分がその音の聞こえた方向へと向かうに連れて、ザワザワとした音がだんだんと大きくなっていく。
それはより一層にジュンの気持ちを落ち着かせていき、絶望の中に小さな希望の明かりを灯す。
けれどそれは希望ではなく、全く別の形へと変わってジュンの心を支配していく…


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