+会えてよかった+
一話


「…と、言う感じですね」
「は…はぁ…」
太陽は余りにも長い話に、頭が混乱しそうになっていた。
「えっと…とりあえず、ですね…入院の手続きをすれば良いんですよね?」
必死に頭の中をまとめながら、必要なことを思い出していく。
「そうですね。印鑑や保険証もいりますから、明日にでも持ってきて頂ければと思います」
「解りました。それじゃ俺、そろそろ失礼しますね」
自分の言ったことが間違いでなかったことに安心しながら、太陽はゆっくりとその場から立ち上がる。
「ったく…必要なことだけ言ってくれれば良いっての」
誰にも聞こえないような小声でそういいながら、ゆっくりとナースステーションを後にする。
「とりあえず母さんに今後のこと話して、家から必要なもの持ってこないとな」
そう言うと少しだけ急ぐように、母親のいる病室へと向かう。
しかしある病室の前を通ろうとした瞬間、その病室から出てきた人物に太陽はぶつかってしまう。
「おわっぁ!」
「うっ、わぁ…」
太陽はなんとか体勢を立て直すことが出来たが、ぶつかってきた相手はそのままその場に倒れてしまう。
「あ…すっ、すいません。急いでいたもので…」
ぶつかった相手に目を向けると、パジャマ姿の少年が倒れ込んでいた。
太陽より身長はずっと小さいけれど、年齢的には近いような感じがした。
「ぁぅ…いた…」
少年は自分の頭の後ろをさすりながら、小さく口を開く。
「大丈夫か? 起きられるか?」
太陽はそっと右手を差し出して、少年の腕をつかみながらゆっくりと起こしてやる。
「あ…すみません…」
少年は太陽にそう返事をすると、パジャマについているほこりを両手で払う。
「あー、いや、ぶつかったの俺の方だしさ。悪かったな」
太陽は右手で頭をかき、苦笑いを浮かべながら言う。
「いえ…大丈夫です…それじゃ僕、行くとこがありますから…」
すると少年は太陽の横を通って、ゆっくりと廊下の先を歩いていく。
太陽はその後姿を見ながら、小さく口を開く。
「…俺と同い年くらいの奴とかも入院してんだな…」
そういうと太陽は、少年の出てきた病室のドアに目を向ける。
『個室/十川尚希 様』
「なんか不思議な奴だったな」
確かにぱっと見では、普通の少年のように見える。
しかし太陽は尚希の声を聞き、そして身体に触れた時、まるで生きているというような感じがしなかった。
「…十川尚希、か」
再び病室のプレートに目を向けて、太陽はその名前を胸に刻み込むようにつぶやく。
「…っと、いけねっ、早いとこ母さんの病室に行かなきゃ」
太陽は自分のすべきことを思い出すと、さっき以上の早足で病室へと向かう。


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