+会えてよかった+
一話


少年のいた場所に置かれている看板を見ると、休憩室と書かれている。
「あれ…あいつ、さっきの…」
少年は休憩室の椅子に座り、何か本を読んでいるようだった。
「…何してんだろうな…」
太陽は少年のことが気になり、その場へとゆっくりと足を運び、そしてそのまま少年が座っている横までやってくる。
しかし休憩室には少年以外にも沢山の人がおり、そのせいか少年は太陽が自分の横に来ても、まるで気がついていないようだった。
「…またスゲー本読んでるな…」
太陽は少年の横へと立って、読んでいる本を覗き込むように見る。
そこにはおびただしい量の文字が、所狭しと埋め尽くされていた。
何の本であるかまでは解らなかったが、少なくとも自分に理解できるような本ではないことだけはっきりと解った。
「……! ぁ…あの…」
少年は太陽の視線にようやく気がつき、顔を視線の方向へと向ける。
本の文字に集中していた太陽もその少年の視線を感じて、少しだけ照れた表情をする。
「ぇあ…わ、わりー…何の本読んでのか、気になっちまってさ」
「あ…いえ…」
少年は顔を横にそらしながら、小さな声で返事をする。
「えっと…横、座って良いか?」
「あ、はい。どうぞ…」
そういうと少年は自分の身体を少しだけずらし、太陽の座るスペースを作る。
「わりーな。…よっと」
「……」
少年は太陽が座ったのを確認すると、再び本を開いて書かれている文章を読み始める。
太陽もその本の内容が気になり、再び開かれている本を覗き込むように見る。
「……ぁ、あの」
少年はその視線が気になり、困惑した表情を見せていた。
「なにか…僕に用ですか?」
「えあっ…用って訳じゃないんだけどさ…どんな本読んでんのかなーって気になってさ」
太陽は再び照れ笑いをするが、少年は困った表情を変えることはなかった。
「……」
「ぇ…えと…なっ、なぁ、お前名前はなんていうんだ?」
何を話して良いのか解らず、太陽はとっさに思った言葉を口にしていく。
「えっ…僕?」
「お前意外に誰がいるんだよ」
厳しいような口調の太陽に、少年は少しだけ怯えながら返事をする。
太陽は口調を厳しくしたつもりはないのだが、どうして良いのか解らない焦りがそうした口調として出てしまっていた。
「えと…尚希」
太陽はその名前を聞くと、あの病室に入院しているのは目の前にいる人物であると確信する。
「尚希か…んじゃ、年は?」
「16歳です…」
そう答える尚希に、太陽は少しだけ驚く。
確かに自分よりも小さいだろうとは思っていたが、はっきりいって16歳には見えない。
そして何よりも印象に残るのは、肌の白さだった。
先程ぶつかった時にも生きているような感じがしなかったが、近くで見ると本当に生きているのかも怪しんでしまいそうな肌の色をしていた。
「ふーん…そっか。あ、俺の自己紹介もしないとな。俺、奥山太陽ってんだ。宜しくな」
「あ…宜しく、です」
太陽が自分の自己紹介をするが、尚希はこれといって反応を返してはくれなかった。
「あの…それで奥山さん…」
おどおどした感じで話しかけてくる尚希に対して、太陽ははっきりとした口調で返事をする。
「っと、『奥山さん』だなんて、敬語じゃなくて全然構わないぜ。太陽で良いよ」
「あ…はい。それじゃ太陽さん…その、僕に何か用ですか?」
尚希は再び困惑の表情を見せながら、そう質問をしてくる。
「えぁ…別に用があるって訳じゃないんだけど…」
特に話しかけた理由があるわけではない。
ただ尚希に興味があったから話しかけたとは、口に出して言えなかった。
「あーっと…ほら、さっきぶつかっただろ? やっぱちゃんと謝っといた方が良いかなー…って…」
苦し紛れに思いつくことを口に出すが、太陽の口調はどことなくぎこちない。
「そうなんですか…別に良いのに…」
しかし尚希は太陽の言葉に疑念を持つことなく、返事をする。
「あーいや、そんなことねーって。やっぱちゃんと謝っとかねーとさ、俺も後味悪いからさ」
太陽はここぞとばかりに、尚希に話しかけた理由をその場で作っていく。
「いえ、良いんです。僕も注意してなかったのがいけないんですから…」
「そかっ、ありがとな。尚希」
いつもの太陽であればもっと押していくのだが、尚希の顔つきはどことなく沈んだような表情へと変わっていた。
これ以上押していくと逆に尚希を責めてしまいそうな気がして、太陽は自分で会話を終了させる。


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