+会えてよかった+
一話


その後は2人とも口を開くことはなかったが、太陽は再び尚希に向かって話しかける。
「なぁ…お前、どれくらい入院してるんだ?」
そう質問しても、返事はすぐに返ってこない。
しかし少しすると、尚希はゆっくりと口を開いていく。
「…一年…くらいかな。本当は中学卒業するちょっと前から、病院には来てたんだけどね」
「えっ…じゃあ学校とかは?」
太陽は入院している期間の長さに驚きつつ、今の尚希のことについて質問していく。
「高校は行ってたんだけどね。病気がひどくなっちゃったから、今は休学してるんだ…」
「ぁぅ…そっか…なんか、悪いこと聞いちまったな…」
もしかしたら尚希にとって、一番聞かれたくないことかも知れない…太陽はそう感じた。
「そんなことないですよ。本当のことですから…」
しかし尚希の表情には、何の変化も見られない。
「でも…いや、なんでもない」
変化のない尚希の表情に、太陽はもっと詮索してみたいと思った。
しかしそれ以上聞くことは、本当に悪いような気がして聞くことを止める。
もしかしたら尚希は無理をしているのかも知れない…それに仲が良いならばまだしも、今日出会ったばかりの人物なのだから、余り深く干渉することは決して良いとは思えなかった。
「ねぇ、太陽さんは、どうして病院に来てるの? さっき病棟の方にいたみたいだけど…」
太陽が一人で顔を下に落としていると、今度は尚希の方が質問をしてくる。
「えぁ? 俺か? なんつーか…俺の母さんが事故で左腕を骨折しちまってさ、その付き添いみたいなもんだな」
「そうなんだ…じゃあお父さんとかは?」
「親父? 親父はいないんだ。もう俺が物心つく前に、死んじまっててさ…」
尚希はその言葉を聞いた瞬間、表情を暗くしてしまう。
「あ…ご、ごめんなさい…僕…」
太陽が他人にこのことを話すと、今日の尚希のような反応を必ずと言って良いほどにする。
確かに人によっては聞かれたくないことかも知れないが、太陽にとってはそれを言うことは別に構わないことだった。
「あー、いや、気にすることねぇよ。本当のことだしさ…それに俺、親父との記憶なんてなにもないからさ…死んでるとか言われても、実感ねぇんだよな」
「そう…なんですか…」
笑いながら太陽は話すが、尚希の表情は沈んだままだった。
「なんつーかな…俺も母さんにその話を聞いたんだけどさ、悲しいとかって…思わなかったんだよな…」
「……」
尚希は下を向いたままだが、しっかりと太陽の話に耳を傾けている。
「けど確かに父親がいないって考えると、悲しいとは思う…けど俺には母さんがいるしさ、その…やっぱ今自分の前にあるものを、すっげー大切にしたいからさ…」
なぜ今日知り合ったばかりの人物に、ここまで喋っているのか…太陽はそう思いながらも、口を開いていく。


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