+会えてよかった+
二話


「えっと…これがパジャマと、その替えのやつな…」
翌日の夕方、太陽は母親に頼まれていた必要な物を持って病院へとやってきていた。
既に面会の時間は終了しているのだが、太陽は遅くしか来ることのできないこともあって、特別に許可を貰っていた。
「あとこれ…保険証と印鑑な。俺が来る時間だともう受付閉まっちまってるからさ、明日にでも母さんの時間がある時にでも出しておいてくれよ」
そういうと太陽はベッドの横にある小さな机の引き出しに、保険証と印鑑をしまう。
「解ったわ。ありがとうね、太陽」
「ん、良いって。あ、服って持ってきたバッグの中に入れっぱなしで構わないか?」
太陽はベッドの周りを見回すが、服を入れるようなケースはどこにも見当たらない。
「そうね…とりあえずベッドの下にでも置いといて頂戴」
「手の届くとこじゃなくて大丈夫か?」
心配そうに聞く太陽に対して、母親は笑いながら返事をする。
「そんな全身が動かない訳じゃないんだから、ベッドから降りてバッグを取ることくらい、簡単に出来るわよ」
「…そっか。そうだよな、わり」
太陽は苦笑いを浮かべ、頭を右手でかきながら言う。
過剰に心配しているということは太陽自身も解っていて、そんなに心配する必要がないことも理解している。
それでも昔からそうやって生きてきた太陽には、それが当たり前のようになっていて、今更変えることは出来なかった。
「ほんと、太陽は心配性ね」
「なんだよ…あんまり笑うなよな」
小さく笑う母親に、太陽は少しすねたような表情をする。
「ごめんなさいね。でも人の心配も良いけど、自分の心配もちゃんとしなさいよ」
「あぁ…解ってるよ」
いつも母親のことを心配して言う言葉の後に、母親は決まってその言葉を口にする。
太陽はその言葉の意味を、しっかりと理解していた。
母親も、自分のことを心配しているのだと…
「そう…なら良いわ」
太陽は母親のことがとても大切で…だからこそ太陽は母親にだけは余計な心配をかけまいと、毎日を自分の出来る力の全てで生きていた。
母親に心配をかけないこと…それが太陽にとっても喜びだった。
「…うん」
母親の言葉に太陽は顔を下に落とし、小さな返事だけを口にする。
また余計な心配をかけた…
自分にかけられる言葉の意味に、太陽はその場で口を閉じてしまう。
「そんな顔しないの。ほら、もう面会時間終わってるんだし」
「えっ…けどっ…」
帰ることを勧める母親に対し、太陽は駄々っ子のようにその場を動こうとはしない。
「けどじゃないの。母さんのことは心配しなくて大丈夫だから!」
「わっ、解ったよ…んじゃ、また来るから」
力強い母親の口調に押されるまま、太陽は自分の荷物を持ってその場から立ち上がる。
「気をつけて帰るのよ」
「解ってるって、俺も子供じゃないんだから…」
そう言うと太陽は病室の入り口に向かい、ゆっくりと歩き出す。
「ったく…母さんもいつまでも子ども扱いすんなよな…」
愚痴るように小さく口を開いて、病室の廊下へと出る。


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