+会えてよかった+
二話


廊下は不思議なくらいに静まり返っていて、まるで誰もいないような感じがした。
「あ…そういえば、昨日尚希のとこにも行くって、言っちゃったんだよな…」
太陽はそのまま階段のある方向へと向かい、病棟を後にしようとするが、ふと昨日のことを思い出す。
しかし既に面会時間は終了していて、自分とはなんの関係もない病室に行くことに太陽は少し頭を抱え込んでしまう。
「うーん…まぁ、ちょっと挨拶するくらいだしな。それくらいだったら問題ないだろ…」
太陽は一人その場で納得しながら、尚希の病室へと向かう。
尚希の病室はナースステーションから近いこともあってか、太陽は出来るだけ物音を立てないように歩いていた。
「えっと…ここだよな」
昨日見たものと同じプレートがついたドアの前に立ち、太陽は少しだけ深呼吸をする。
「ふー…な…なんか緊張するな…」
特別なことをするわけではないが、やはり知らない場所に入ることには緊張してしまう。
「えっと…尚希? いるか?」
そう言って小さくドアをノックすると、内側から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ…どちら様、ですか?」
昨日初めて話した時と同じような、おどおどしたような口調だった。
「あ、尚希か? 俺俺、太陽だよ。入って良いかな?」
「太陽…さん? あ、はい。どうぞ」
そう部屋の中から尚希の声が聞こえてくると、太陽はゆっくりとドアを開く。
「おじゃましまーす…」
入ってすぐに目に入るのは、他の病室では見かけないような機材が置かれている。
電源が入っていないので使われていないことは解ったが、それでも驚きの表情は消せない。
『…コレって…全部尚希の病気用に置いてあるってことかな…』
尚希のあの小さな身体に、こんなにも大掛かりな機材が用意されている。
どんな病気になっているのかは解らないが、昨日の話も関係してか、少なくとも大病であることだけは解った。
太陽は機材の横を通り、カーテンで仕切られた場所までゆっくりと歩く。
個室なのにカーテンで仕切る必要があるのかと思いながらも、その端を持って中を覗き込む。
「あ…こんにちは…」
そこには昨日と似た格好をした尚希が、ベッドの上で座りながら本を開いていた。
顔は笑顔を見せているが、やはり生きているような感じはしない。
「おっす! なんか突然来ちまって悪かったな」
「いえ、別に良いですよ。でも本当に来てくれたんですね」
そういう尚希の顔は、少しばかり驚いているようだった。
「あぁ…約束したからさ、顔くらいは出さないと…って思ってさ」
太陽はそういいながら、病室の方を見回す。
個室ではあるが、部屋の中自体は6人部屋の病室と余り変わりはなかった。
病人用のベッドがあって、小さな机とテレビが置かれているだけ…
しかしそれ以外に目立つようなものは、何ひとつ見当たらない。
「なぁ…お前、この部屋1人で使ってんだよな?」
「うん。そうだけど…どうかしたの?」
不思議そうに聞いてくる太陽に、尚希もまた同じような表情をしながら聞く。
「あぁ、いや…なんつーか…お前の私物みたいのが、何にもないなーって思ってさ」
「うん…あんまり置くのもどうかと思うし、そんなに必要じゃないから…」
そういう尚希の返事はどこかぎこちなく、何かを隠しているような感じがした。
しかし太陽はそれ以上聞くことを止め、その場にあった面会者用の椅子に座る。
「そっか…でもお前、個室に一人って寂しくないか? なんか妙に広い気もするし…」
「ん…最初のころはそう思ったんだけどね。慣れてくると、どうってことないよ」
尚希は笑い顔を見せながら、太陽の質問に答える。
「そういうもんかなぁ…俺なら耐えられない気がするよ…」
昔から人と付き合うことが大好きで、誰かと話をすることを楽しみとしている太陽には、病院の個室でずっと生活をすることなど考えられなかった。


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