+会えてよかった+
二話
「太陽さんって、誰かと話すの好きみたいだから…きっと僕みたいな生活してたら、変になっちゃうかもね」
尚希は冗談交じりに口を開く。
「はは…でも確かにそうかも知れないな。でも、なんで俺が話すの好きだって思うんだ?」
太陽は照れ笑いを浮かべながら、尚希に質問する。
「えっ…解んないけど…昨日突然僕の所に来て、話しかけたりしてきたからさ。変わった人だなって思って…」
「…俺、やっぱ変わってんのかな?」
尚希の言葉に、太陽は顔を少しだけ下にうつむけて返事をする。
「あっ…そういう意味じゃなくて…そのっ…なんで僕なんかに話しかけてきたのかなって…思ったから…」
「あぁ、わりぃ…別に責めるつもりで言ったわけじゃないからさ」
言葉をとぎらせ返答に困る尚希に、太陽は笑顔で返事をする。
「ご、ごめんなさい…」
「良いって。けどなんで話し掛けたって言われてもな…なんとなく…だな」
話し掛けた理由は、ただ尚希に興味を持った…それだけだった。
初めて見た時の、まるで生きている感覚のない身体…それが強く印象に残っていて、もっと知りたいという興味を持ったからなのかも知れない。
「なんとなく…ですか?」
「うん…なんとなく…だな」
しかし太陽は尚希の生きている感覚のない身体が、病気によって起こっているのだと理解している。
当然病院に長く入院しているのだから、そう考えるのが普通だった。
そしてそれだけ長期に入院しているのだから、大病であることもそれとなく解る…
太陽にとって最も聞きたいことは、尚希の病気のことだが、それを聞くことだけは出来ないでいた。
それを聞くことは、尚希自身を傷つけてしまうかも知れない…太陽はそう思っていた。
「……」
「……」
会話が完全に止まって無言の間ができてしまい、お互いに口を開くことに困惑してしまう。
「そのー…なんつーかな…俺と年齢的に近い奴も入院してるんだって思ってさ…ちょっと気になったんだ」
太陽はその空間に1分と耐え切れず、すぐに口を開いてしまう。
しかし顔は尚希の方ではなく、全く別の方を向いていた。
「そう、なんだ」
「ぉ、おう! ほら…だいたい初対面の人に話しかけるのなんてさ、いちいち理由なんていらないじゃん。他の人はしらねーけど、俺はそうだからさ」
太陽は別の場所に向けた顔をそのままに、慌てたような口調で話す。
「…そっか…そうだよね…ごめんね…太陽さん」
そんな太陽の言葉を聞き、今度は尚希が顔を下にうつむかせてしまう。
先程太陽が顔を落とした時以上に顔を落としていて、確実に沈んでいることが解る。
「ごめんって…そんなこと気にしなくても良いって」
「…うん」
尚希がそう返事をすると、その場は再び無言の空間に包まれる。
「……」
「…えと…」
流石に今度ばかりは別の話題が見つからず、太陽も困惑の表情を見せ始める。
太陽の全身に落ち着きがなくなってきて、無意識に辺りをきょろきょろと見回し始めていた。
「あっ! もう、こんな時間なのか?」
とっさに見つけた時計に、太陽は突然大きな声をあげる。
「えっ?! …うん。時計の時間は狂ってないと思うから、6時半で間違いないと思うよ」
「やっべ…俺7時からバイト入れてんだ! わり…そろそろ帰るわ」
「あ…うん。ごめんね、折角来てくれたのに、何も出来なくて…」
「そんなの良いって」
そう言うと太陽は床に置いた自分の荷物を持ち、急いで病室の入り口へと向かう。
「それじゃな、また来るよ」
「あ…うん…またね」
「おう」
小さな尚希の声に対して、太陽は大きな声で返事を返しながら病室を後にする。