+会えてよかった+
三話
「……」
太陽は尚希の病室の前まで来るが、その場で固まってしまう。
さっきまであった緊張がより強くなり、まるで自分の身体を縛り付けているような感じがしていた。
「べっ…別に、緊張なんてする必要なんてないんだよ! うっし…」
ガチガチの身体を動かして、太陽は病室のドアに手をかけて、ゆっくりと開いていく。
「尚希ー、入るぞ」
もう何回もこの場所に来ていることもあって、ノックをすることなく部屋の中へと入っていく。
しかしいつもならば返事があるはずなのに、今日はなんの返事も聞こえてはこなかった。
その代わりに、別の誰かと話しているような声が聞こえてきた。
「…誰か来てるのかな?」
太陽は音を立てないようにドアを閉めると、足音を出さないようにベッドの方へと歩いて行く。
「…だから…療養もかねて、外出をするのも良いと思うんだが…」
聞いたことのない人物の声が聞こえてくる。その声はどことなく、困っているような声だった。
「別に…療養なんて良いです…僕、どうせもう…」
その返事なのか、尚希の声が聞こえてきた。
しかし今までに聞いたことのある尚希の声ではなく、とても低くて、暗い印象を受けるような声だった。
「…誰と話してんだ?」
太陽は尚希と話している人物が気になり、閉められているカーテンを少しだけ開いて中を覗き込む。
尚希の姿はベッドの上で確認する事ができ、その横には白衣を着た男性が立っていた。
「…先生…か…主治医の先生かな?」
話している相手が誰であるかが解ると、太陽は心なしか自分の気持ちが軽くなったような気がした。
「そう悲観するものじゃないと、何度も言ってるじゃないか」
尚希の言葉に、医師は少しだけ強い口調でそう口にする。
「…別に、悲観なんてしてないです…どうにもならないって、自分でも解りますから…」
しかし尚希の反応はさっきと変わらず、冷たい印象を受ける。
「しかしだね…」
「もう…僕のことは放っておいてください…自分の身体のことは、自分が一番良く知ってますから…」
医者は諦めきれずに話をしようとするが、尚希はそういって顔を下にうつむけてしまう。
「……」
尚希の変わらない態度に、医師は完全に黙ってしまう。
「…とにかく、最後まで諦めるようなことだけは言わないで欲しい。それだけだ…」
そう言うと医師は後ろを向いて、その場を離れようとする。
「……」
尚希もその言葉には何も言わず、ただ無言で医師を見送る。
「うわっ…やべっ…」
太陽はとっさにカーテンを覗き見ていた体勢から、いつもの体勢へと戻す。
「ぁ…君は…」
医師は太陽の姿を見つけると、少しだけ驚いた表情を見せる。
「あ…俺、尚希の友人です。なんか取り込み中だったみたいだから…」
「あぁ…十川君の友人か。すまなかったね、ちょっと問診が長引いてしまって…」
「いえ…別に、平気です…」
太陽は先程までに尚希と会話していたことを聞きたいとは思ったが、流石に尚希本人がいる前では聞くことが出来なかった。
「…それでは私はまだ仕事が残っているので、失礼しますね」
少しの沈黙の後、医師はそう言って尚希の病室を後にする。
「…尚希?」
医師が去って少ししてから、太陽はカーテンを開いて中にいる尚希に話しかける。
そこにはベッドの上で体育座りをして、膝に自分の顔を埋める尚希がいた。
「ぁ…太陽…さん?」
尚希は太陽の声に気がついて、ゆっくりと顔をあげる。
「よっ…なんかー、あったのか?」
流石に医師との会話を覗き見て聞いていたとは言えず、太陽はぎこちなくもそう尚希に声をかける。
「うん…ちょっと…」
尚希は暗い表情をしたまま、再び顔を膝に沈めてしまう。