+会えてよかった+
三話
「……」
太陽もそんな尚希にかける言葉が見つからず、無言になってしまう。
「ごめんね…せっかく太陽さん来てくれたのに…」
「ぇぁ…別に気にしなくても良いって。そりゃ誰だって、落ち込む時くらいはあるからさ」
少しでも場の雰囲気を明るくしようと、太陽は笑い声交じりの声でそう口にする。
「うん…ありがとう…太陽さん」
すると尚希は顔を上げて、僅かに笑顔を見せながら返事を返してきた。
「…気にするなって…それより、さっきの医者と何か話してたのか?」
「…うん…今後の治療の方法とか…その…色々と話してた…」
尚希は小さな声で、まるで他人事のように言う。
「話してたって…お前のことだろ?」
「…うん…そうだね。でも……ううん。なんでもない」
「なんだよ…言いたいことがあるなら言えって」
尚希の口調は、明らかに何かを隠していると解る。
太陽はその言葉を聞き出そうと、優しい口調で尚希に話しかける。
「なんでもない…なんでもないから…」
「…そっか」
今にも泣き出してしまいそうな声で言う尚希に、太陽はそれ以上聞くことを止める。
聞きたくないといえば嘘になるが、今ここで尚希の口から、隠していることを無理やり言わせることは出来ないと思った。
「…尚希…大丈夫か?」
太陽は下に向ける尚希の顔に自分の右手を当てる。
そして心配そうな表情をしながら、顔を尚希の前へと近づけていく。
どうしてかは解らないが、太陽は無意識に尚希の身体に触れていた。
「ぁっ…太陽…さん……」
尚希の頬が、急速に赤くなっていくのが解る。
白い肌のせいもあってか、まるで血のように赤く見えた。
「あっ! わっ、わりー…」
そんな尚希の表情を目の当たりにすると、太陽はとっさに我に返り、尚希の顔に触れた手を離す。
「あ…いっ、いえ…僕…大丈夫だから…」
尚希は顔を横に向けながら、恥ずかしそうに言う。
「そっ、そっか…なら、良いんだ」
太陽もまた尚希と同じように、顔を赤らめながら言う。
「……」
「……」
その後暫くは2人とも顔を合わせることが出来ず、口を開くことも出来なかった。
「えっと…その…」
「……」
太陽が何かを話そうと口を開くが、話題は何一つ出てこない。
意味のない、似たような言葉ばかりしか、頭には思い浮かんでこなかった。
「あの…太陽…さん?」
「えぁ…なっ、なんだ? どうしたんだ、尚希」
突然自分の名前を呼ばれたことに驚きながら、太陽は尚希の方に顔を向ける。
尚希の頬は、まだほんのりと赤みを持っていた。
「あ…その…あの…」
尚希もまた太陽と同じように、意味のない言葉を連続させる。
しかし少なくとも、太陽と違って何かを言いたがっているようだった。
「どうした? 言いたいことあるなら言えって…」
「あ…うん…変な奴だって…思わないでね…」
その尚希の言葉に、今まで自分が尚希に言ってきた言葉を思い浮かべる。
これまで話の中で、何度も『変な奴』と言ってきたかもしれない。
ただどれも自分の中では冗談半分だったのだが、もしかしたら尚希を傷つけていたのかも知れない…
「そんなの…思わないって。今まで一度も思ったことなんてないんだからさ」
太陽は今までのことを謝るように、真面目な表情をしながら返事をする。
「…うん…あの…横にね…来てくれないかな…って、思って…」
太陽の返事に安心してか、尚希は恥ずかしそうに、言葉を途切れ途切れに言う。
「えっ…横って…」
「…ごっ、ごめんね…変なこと言ったりして…やっぱり、変…だよね…」
すると尚希は、再び自分の顔を下に落としてしまう。
「別に…変じゃねーよ…」
太陽は強気の口調を発しながらも、顔は赤くなっていた。
「えっ…あ…」
尚希が顔を起こして太陽のいる方に向けようとすると、少し遠いながらも太陽は尚希の近くへと座る。
「…これで…良いのか?」
相変わらず顔は横を向いたままだが、太陽は確認するようにそう尚希に聞く。
「…うん! ありがとう、太陽さん…」
尚希は嬉しそうにそう返事をすると、太陽の取った僅かな距離を縮め、自分の身体を太陽の身体に寄せる。
そしてそのまま目をつむり、眠るように太陽の肩に横たわる。
「……」
「……」