+会えてよかった+
四話


「やっべー…遅くなっちまったな…」
太陽は完全に日の落ちてしまった時間に、全速力で走りながら病院へと向かう。
腕にしている腕時計のスイッチに手を当ててバックライトを照らし、現在時刻を確認する。
「うわっ…もう8時過ぎてんじゃんか! 急がなきゃ病院自体が閉まっちまうよ」
今日はバイトの時間がいつもと違っていて、太陽は学校が終わってから今までずっとバイト先で働いていた。
本当ならば毎日7時〜夜中までが太陽の勤務時間なのだが、先日尚希と一緒にいてサボってしまったことも関係して、半ば強制的にシフトを組まれてしまっていた。
当然太陽も勝手に決められたことには反発したのだが、バイトを1日でもサボったことは間違いない。だから太陽は、黙って言うことを聞くしかなかった。
「ったくよー。一回くらいサボったって良いじゃねぇかよ…」
電柱に照らされるライトを頼りにしながら、太陽は病院までの道のりで文句を言いながら走り続けていた。
「はぁっ…はぁっ…」
太陽は大きく息を切らせながら、救急の入り口にやってくる。
時間の関係で正面入り口はもう完全に閉鎖されていて、病院に入る為にはこの入り口を使う以外にない。
「えっと…時間は…」
救急受付の上にある掛け時計に目を向けると、針は8時30分を指している。
「はぁー…良かった、間に合って…」
太陽がその場で荒い息を整えようと深呼吸をしていると、救急受付にいた看護婦が太陽に声をかけてくる。
「あの…急患の方でしょうか?」
太陽を見る看護婦の表情は、明らかに疑いの表情をしていた。
救急に来るにしては健康すぎるし、今の太陽は息を切らせているが、誰がどう見ても病人には見えない。
「うぅぇ?! ちっ、違います。あの、俺…」
入院している人の見舞いに来たと言おうとするが、太陽は口をこもらせて黙ってしまう。
もう病院規定の面会時間は、数時間前に終了している。
それに母親の入院している病棟では自分が面会時間外に来ることを許されてはいるが、この場でそのことを言っても聞き入れて貰えないかと思ったからだった。
「…じゃあ何か御用でしょうか?」
看護婦は冷静に対処しようと、冷たく言い放つような口調で太陽に言う。
「あー…えーっと…俺入院してるんですよ、今日ちょっと外出してたんですけど、迷子になって…その…」
そういう太陽の口調は不確かなことばかりで、誰が聞いても真実とは受け取ってもらえそうにない。
「……」
そんな太陽に、受付の看護婦は冷ややかな目を浴びせてきた。
「うぅ…すみません…」
太陽はそれ以上無駄な言い訳をすることをやめて、素直に謝りを入れる。
「はぁ…ご用件はなんでしょうか?」
看護婦はあきれてため息をつきながら、先程と同じ質問を太陽にしてくる。
「えっと、その…母さんが入院してて、ちょっと荷物を届けに来たんです。あ、俺バイトで昼間は絶対に来られないから、こんな時間しか来れなくて…」
今度ははっきりと、この場所に来た理由を言う。
すると看護婦はさっきまでのピリピリとした表情を和らげて、優しそうな表情へと変えていく。
「そうなんですか…解りました。そちらの通路から、エレベーターを使えば病棟の方へと行けますよ」
「えっ、良いんですか?」
そう質問する太陽に、看護婦は念を押すような口調で言ってくる。
「ですがもうすぐ病棟自体が消灯になりますから、用事はその前に済ませてくださいね」
病院の消灯時間は9時…大人が寝るにしては早すぎる時間であるが、病院である以上それに従わなければならない。
太陽もそのことを十分理解していて、看護婦の言葉にはっきりと返事を返す。
「解ってますって! それじゃ、失礼します」
そう言うと太陽はその場から走るように、病棟の方へと向かって行った。


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