+会えてよかった+
四話
「えっと…病棟はっと…こう行けば良いのか」
いつもとは違う道のりで病棟へと向かうせいか、近くにあった地図で確認しながら歩く。
病棟の廊下は明かりこそついているが、もうすぐ消灯時間になることも関係してか人通りは全くない。
「…なんかこえーな…」
明るいにも関わらず、静かな病院の廊下は不気味な雰囲気が漂っている…太陽はそう感じていた。
それにもうひとつ、太陽は胸の中であることを思っていた。
「なんか…嫌な感じするんだよな…」
特別に何かがあったわけでもないのに、なぜか胸の高まりが収まらない。
さっきまで全速力で走ってきたこともあって、ずっとそのせいだと思っていた。
しかし今はこうして落ち着くことが出来ているはずなのに、胸にもやもやしたものが残り続ける。
「…そういえば、尚希のとこにも行けるかな」
そう言って太陽は、自分の腕時計で時間を確認する。
「8時45分…本当に行くだけで終わっちまうな…はぁ…」
ため息をつきながら、太陽は病棟の方へと向かって歩いていた。
「まっ…顔見せる時間くらいはあるだろうな…それに」
2日前から尚希とは全く会っておらず、会話も交わしていない。
太陽はその2日間、母親のこと以上に尚希のことを心配していた。
尚希がなにをしているのか…尚希の病気は大丈夫なのか…と。
「…だぁぁ…やべぇって! 尚希のこと考え出すと、止まらなくなっちまうからな…気をつけないと…」
太陽は一人自分に突っ込みを入れながら、顔を赤くし始める。
自分は尚希のことが好きだと、太陽は解っている。
だから会えなかった2日間…とても会いたいと思った。
会いたくて、話をしたくて仕方がなかった。
「だー! もう俺も女々しいこと考えるなってーの!」
自分に言い聞かせるように大きな声をあげながら、太陽は誰も居ない廊下で自分の頬を軽く叩く。
しかし太陽は病棟に到着するまで、その大きな声で独り言を言い続けていた。