+会えてよかった+
四話
少しすると、部屋のドアが勢い良く開くのが解る。
すぐに先日尚希の部屋に来ていた意思と、先程の看護婦が沢山の医療道具を乗せたものと一緒に入ってくる。
「先生っ! 尚希の奴…スゲー苦しがって!」
太陽はとっさにその場から立ち上がって、医師に強く願うような表情でそう言う。
「大丈夫です。いつもの発作だと思いますので…すぐに処置をしましょう」
そういうと医師は、急いで苦しむ尚希の横へと向かう。
そして横にいる看護婦に時々指示をしながら、様々な薬品を準備させていた。
「…少しだけ胸を見せてもらうよ…」
「はっ…っ…っ…ぁ…」
苦しそうに自分のつかむようにしている尚希の手を、医師は少しだけ避けて聴診器を当てる。
「尚希…」
太陽は医師と看護婦のする処置を、ただ祈るように見ていた。
「注射の準備をお願いします。薬剤はいつもので…」
「解りました」
医師がそういうと、看護婦は慣れた手つきで注射を準備し、その中にあらかじめ用意しておいた薬剤を注入していく。
「少し痛むけど、我慢だよ」
医師は尚希の腕を持って少しだけ伸ばすと、二の腕の辺りを消毒液で濡らした綿で拭き、用意された注射を刺す。
中に入れられている薬剤は、あっという間に尚希の体内に注入されていく
「これで良いはずだ…」
医師はそう一言言って、刺した注射の針を抜いて様々な薬剤の載った台の上に置く。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
薬の効果なのか、尚希の息遣いがさっきよりも楽になっているような感じがした。
そしてそれを確認するように、再び尚希の胸に聴診器を当てる。
「あの…先生…尚希は」
「…まだ薬を投薬したばかりだからなんとも言えないが、一時間もすれば良くなるはずだ」
太陽が心配そうに聞くと、医師は冷静に返事をする。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「すぐに良くなりますからね」
看護婦はそう言いながら、尚希を支えてベッドに横たわらせる。
太陽はそんな尚希の方に顔を向けると、さっきまでの息苦しさを感じさせるような素振りはなにもない。
「でも…こんなにすぐに良くなるものなんですか?」
いきなり変わる尚希の状態に、太陽は不信に思った。
「…即効性のものだから、そのまま眠ってしまうんだ。大丈夫、心拍数の方はまだ一定に戻ってはいないが、さっきよりも随分落ち着いてはきている。心配することはない」
医師の声はしっかりとしていて、信じるに値するだけの言葉だった。
「…あ、ありがとうございます」
その言葉を聞いて、太陽はその場で深々と頭を落とす。
良かった…良かった…
太陽の心の中は、もうそのことだけしか考えられなかった。
苦しむ尚希が、助かって良かった…
涙が出そうになってくるが、太陽は必死にそれを押さえていた。
「…ところで、君は確か…十川君の友達だったよね? こんな時間に来ていたのかね?」
医師が太陽の方を見ながら、思い出したように言う。
「あ…はい。今日はバイトのせいで、母さんの見舞いに来るのが遅くなってしまって…それで帰りに尚希の所に顔だけでもって思って来たら…尚希が苦しんでて…」
太陽はこの場所に来るまでのことを、医師に説明する。
なんとか落ち着きを取り戻すことが出来たこともあって、いつも通りに話すことが出来た。
「そうだったのか…ともかく理由はどうあれ、君がいてくれて良かったよ…」
医師はそういうと、ホッとした表情を浮かべる。
「先生。十川さん、だいぶ落ち着いたみたいです」
看護婦がそう言うと、医師と太陽は尚希の眠る顔に目を向ける。
息遣いは完全に落ち着きを取り戻し、寝顔も安らいでいるようだった。