+会えてよかった+
五話


「ぅ…う、ん…」
カーテンで完全に仕切られた病室のベッドの上で、尚希はゆっくりと目を覚ます。
先程までにあった苦しみのせいか、僅かに胸がズキズキと痛む。
「あれ…僕…えっと…」
尚希はベッドに横になったまま、これまでにあったことを思い出そうとする。
「確か僕…発作起こして…えっと、それで…太陽さん…そうだ、太陽さんが!」
太陽が来ていたことを思い出すと、尚希は慌ててベッドから上半身を勢い良く起こす。
そして顔を横に向けると、面会者用の椅子に座り、顔を自分の寝ていたベッドに埋めている太陽がいた。
そして尚希は同時に、左手に人の温かさを感じて自分の手に目を向ける。
「太陽さん…」
そこには太陽の右手が、自分の左手をきつく握り締めていた。
「…夢じゃ…なかったんだ…」
とても苦しくて、自分に何が起こっているかなんて何も解らなかった。
それでもひとつだけ解っていたのは、太陽が側にいてくれたことだけ…
夢だと思っていたけれど、それは夢じゃなかった。
太陽はずっと自分の側にいて、ずっと自分の手を握っていてくれた。
「太陽さん…」
『嬉しい…言葉にならないくらいに…』
尚希は自分の手を握る太陽の手と一緒に、自分の頬へと持っていく。
「ぅ…ん」
その動きに太陽は少しだけ口元を緩ませたが、目を覚ますことはなかった。
「温かい…太陽さんの手…」
太陽の手の甲を自分の頬に当てながら、尚希はそうつぶやく。
「太陽さん…ありがとう…」
そういうと尚希はゆっくりと自分の目の前に手をおろし、握り合う手の上から右手をかぶせるように置く。
そしてそれを、尚希はただ強く握り締め続けていた。
「すぅ…すぅ…ぅん…ぅぅん…」
太陽はずっと寝息を立てて眠り、尚希はそんな太陽の表情を見ながら手を握り締める。
「……」
ただこうして、太陽の手を握り締めていることが嬉しかった。
太陽に触れ、温かな体温を感じられる…それだけで嬉しかった。
「太陽さん…」
暫くして尚希はそう小さくつぶやきながら、眠る太陽の表情に触れながら言う。
「ぅ…んん…」
すると太陽は僅かに声を上げるが、すぐに寝息へと変わってしまう。
尚希はそんな太陽の表情を見て微笑みながら、再び太陽の頬に触れる。
「…太陽さん…大好き、です…」
小さく、たとえ起きていたとしても、聞こえないほどの小声で尚希はつぶやく。
「すぅ…すぅ…」
太陽はそんな尚希の声には何の反応をすることもなく、ただ眠りについているだけだった。
「……」
尚希はそんな太陽の表情を見つめ、笑顔を絶やすことはなかった。


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