+会えてよかった+
五話
「う、ぅうん…はれ…俺…」
尚希のベッドに顔を埋めていた太陽は目を覚まし、眼をこすりながら顔をゆっくりをあげる。
「やべぇ…寝ちまってたんだ…尚希?」
まだぼやける視界のまま、太陽は尚希の方へと目を向ける。
「おはよう…太陽さん」
そこには自分の方を向いて微笑む、尚希の姿があった。
「な、尚希っ?! 身体の方、大丈夫なのか?」
尚希の顔を見るなり太陽は驚いたような表情をしながら、尚希の両肩に自分の手を置いて、身体をゆするようにしながら聞く。
「あ…うん。もう大丈夫みたいだよ」
突然の太陽の行動に驚きながらも、尚希ははっきりとした口調で返事をする。
「本当か? どっか、身体の痛いところとかないか?」
尚希がそういっても太陽は心配そうな表情を消すことなく、尚希を気遣う言葉を繰り返す。
「うん…もう平気。ちょっとだけ胸がズキズキするんだけど…これくらいだったら全然大丈夫だよ」
「そっか…良かったー…」
その言葉に太陽は安堵の表情を浮かべ、尚希の肩に自分の顔を落とす。
そしてそのまま自分の両腕を尚希の身体にまわすと、ゆっくりと弱い力で抱きしめていく。
「た、太陽さん?」
太陽が自分にすることに、尚希は再び驚きの声と表情をする。しかし嫌がるような素振りは、決してなかった。
「良かった…本当に良かった…」
少しだけ震えるような声で太陽がそう言うと、尚希は自分の身体を抱きとめる腕が強くなっていくのが解る。
「…太陽さん」
「苦しむお前見て、死んじまうんじゃないかって本気で思って…俺…」
だんだんと太陽の震える声が、涙声へと変わっていく。
尚希が病気で苦しんでいる間中、太陽はそのことばかりが頭の中を巡っていた。
もし尚希が死んだら…自分の前からいなくなってしまったら…
最悪なことばかりを考えてはいけないと思っても、その思いが消えることはなかった。
だからこうして再び尚希に触れて、会話が出来ること…太陽には喜びの他なかった。
大好きな…尚希だから…
尚希には太陽の表情を見ることは出来なかったが、太陽が泣いていることははっきりと解った。
「…ごめんなさい…太陽さん…」
「…謝る必要なんてないって…とりあえず、良くなったんだしさ」
あくまでも一時的な治療であって、尚希の病気が良くなったわけではないことは解っている。それに今回の尚希の病状を見て、簡単に治るようなものではないことも否が応でも理解することが出来た。
「尚希…良かった…」
それでも太陽は、嬉しくてたまらなかった。
今こうして尚希が目の前で息をしていて、身体に触れると生命の鼓動を感じる…そして自分と、僅かながらも会話を交わしてくれている…今はそれが嬉しかった。
「良かった…本当に良かった…」
太陽はそう何度も、同じ言葉を言い続けていた。