+会えてよかった+
五話
「…太陽…さん? 身体、痛いよ…」
太陽は自分でも気がつかないうちに、尚希のことをきつく抱きしめていた。
心配していたことばかりが先行して、今まで自分が何をしていたのか…太陽には解っていなかった。
抱きしめていたことも勿論、無意識に身体が動いていた。
尚希が生きていることを、実感したかったのかも知れない。尚希が自分の近くにいることを、全身で感じたかったのかも知れない。
「え、あ…わ、わりぃ…」
尚希の言葉に太陽は我に返り、慌ててと抱く力を弱めていく。
「……」
そして太陽が尚希の身体から離れようとすると、今度は尚希の方が太陽のことを、黙って抱きしめてきた。
「え…尚希?」
「…痛いけど、離れないで…欲しいな」
「尚希…けどっ…」
さっきまでは全く感じなかった恥ずかしさが、今になって大きくこみ上げてくる。
太陽の表情は、真っ赤に変化していた。
「…お願い…」
困惑する太陽の返事に、尚希はまるで何かを請うように口を開く。
小さな声でも、願いのようなものを強く感じる。
「…解ったよ…」
そんな尚希の声に、太陽は顔を赤らめながらもそう返事をする。
「痛かったら言えよな…」
「…うん」
そういうと太陽は、再び尚希の身体を抱きしめる。
さっきよりも強く抱きしめているわけでもないのに、今までに感じたことのない恥ずかしさがこみあげてくる。
全身が緊張してしまい、全身にまるで重石を乗せられたよう、上手く動かすことが出来ない。
それでも、決して嫌な恥ずかしさではなかった。
「その…尚希?」
太陽は恥ずかしさのせいか、少しだけうわづいた声で尚希の名前を呼ぶ。
「…何? 太陽さん…」
そんな太陽の声とは異なり、尚希の声はどことなく暗い口調だった。
「あ、いや…なんでもない」
尚希は今、自分を必要としてくれている。だから自分が恥ずかしがるのは、きっと尚希に悪いと思った。
そしてそう思うと、不思議と全身から緊張が解けていくような感じがした。
「…うん」
尚希はそう返事をすると、黙って太陽に抱かれていた。
「……」
太陽もまた、静かに尚希のことを抱きしめる。
会話は何もない…けれどとても幸せに感じられた。