+会えてよかった+
五話
「…ごめん」
そう言って太陽は口を閉じ、抱きしめていた尚希の身体から離れようとする。
これ以上尚希を抱きしめることは、自分の気持ちを押し付けるだけになってしまうと思ったから…
「…太陽さん」
すると尚希は離れようとする太陽を、自分の両手で抱き止める。
「…尚希?」
「太陽さん…嘘じゃないよね…その言葉、嘘じゃないよね?」
尚希は太陽の身体を抱き止めながら、そう質問をしてきた。
本当は尚希も、太陽の言葉が嘘ではないことくらいわかっている。
それでも、はっきりと太陽の口から言って欲しいと思っていた。
「…当たり前だって…こんな所で、嘘なんて言えないよ…」
場の雰囲気が読めないほど、太陽は鈍感ではない。
この場所で嘘やふざけたことを言うことは、太陽には出来なかった。
そして太陽の返事を聞くと、尚希は途切れ途切れではあるが口を開き始める。
「…僕、もね…太陽さんのこと…好きです…」
「…尚希…何言って…」
「毎日毎日…太陽さんのこと考えてるんだ。明日は来てくれるかなって…明日も来てくれるかなって…」
太陽が尚希の言葉に驚いて口を開こうとするが、尚希はそれをさえぎって話し続ける。
その声はさっきまでの暗い口調ではなく、明るい印象を受けるものだった。
「太陽さんが来てくれるのが、凄く嬉しくて…来てくれないと、凄く寂しくて…だから僕もね、太陽さんのこと…好きです」
「…尚希…」
「だから僕…太陽さんが僕のこと好きだって言ってくれて、凄く嬉しかった…僕のこと、好きになってくれたんだって…」
尚希の声は、喜びに満ちていた。
「…尚希」
自分も何かを言わなければならないと解っているはずなのに、言葉が出てこない。
そんな太陽とは裏腹に、尚希は同じ言葉を繰り返し伝えてきた。
「僕は、太陽さんのことが好きです。優しくしてくれる…自分のことを好きになってくれた太陽さんが、大好きです」
そういって尚希は、太陽のことを強く抱きしめる。
そして尚希が何度も自分に伝えてくる言葉に、太陽も同じような言葉を口にする。
「…俺も、尚希のことが好きだよ…」
何か言葉を考える必要なんてない。
『好き』
…その一言を伝えるだけで、十分だった。
「ありがとう…太陽さん…」
言ってくれた一言に、尚希はそう一言だけ口にする。
それは尚希にとって、もう一度欲しいと思っていた言葉だから…
「…ありがとうって、言うことじゃないって…」
「…そうかな…でも、ありがとう…太陽さん」
そういうと尚希は全身の力を抜き、全てを太陽に預けるように倒れ込んでいた。