+会えてよかった+
五話


太陽は何度も重ねあった唇を離して、再び抱き合うように尚希を支える。
「たいよう…さん…」
尚希の表情はまるで夢を見ているようにポーっとしていて、太陽が支えていなければすぐにでも倒れてしまいそうだった。
「尚希…大好きだよ」
そういって太陽は、再び尚希のことを強く抱きしめてやる。
本当はもっと…もっともっと尚希を知りたい。尚希のことを抱きしめたい…尚希と…
その終わりのない思いを太陽は持っていたが、今はそれ以上のことをすることはできないと思っていた。
今はまだこうして抱き合うことが出来て、そしてキスが出来るだけで十分だと…そう思った。
それでも先に進みたい気持ちを隠すことは出来なくて、太陽は名残惜しそうに尚希の身体をずっと抱きしめ続ける。
「…太陽さん…あのね…」
自分を抱きしめ続ける太陽に、尚希もまた太陽と同じことを考えていた。
もっと太陽のことを知りたくて、もっと太陽と一緒になりたくて…
こうしていられることは、そうできることじゃない。出来ることならば、この場でもっと近くに寄っていたい…
「尚希?」
しかし尚希は言葉を途中で止めて、なかなか先を言おうとはしなかった。
「…ごめんなさい…太陽さん…変なこと言うけど…」
少しの沈黙の後、尚希はそう前置きをしてからゆっくりと口を開いていく。
「…僕、平気だから…だから…だから、もっと太陽さんといたい…」
「…尚希…」
尚希が言ってきた言葉の意味は、すぐに理解をすることが出来た。
それは、自分も同じことを考えていたからかも知れない。
「…けど、お前まだ身体の調子が良くないだろ…無理したら…」
またあの時のように、苦しむ尚希を見てしまうかも知れない。
今度は自分が無理をさせたせいで、尚希を苦しめてしまうかも知れないという思いが、太陽の行動を制止させる。
「…平気だよ…ちょっとくらいなら、全然大丈夫。それに…もう…」
そう言う尚希の声は、最後の方だけがはっきりとしなかった。
「でも…」
太陽は尚希の言葉に、困惑した表情をしながら返事を返そうとする。
「お願い…太陽さん…お願い…」
しかし尚希の声はだんだんと涙声へと変わり、まるで駄々をこねる子供のようにも感じられた。
ちょっとやそっと言い聞かせたくらいでは、絶対に言うことを聞かない…そう感じさせる声だった。
「尚希…」
「お願い…」
尚希はそう何度も言いながら、自分を抱く太陽の身体を両手で強く抱きしめていく。
「…解ったよ…けど、少しでも何かあったらすぐに止めるからな…」
そしてそんな尚希に押されるように、太陽はそう返事を返してしまう。
「…うんっ!」
尚希の返事は明るく、本当に喜んでいるようだった。


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