+会えてよかった+
六話
「あれ…なんか騒がしいな…」
病棟の入り口近くまでやってくると、白衣を着た男性や女性が激しく出入りを繰り返していた。
いつもと違う時間に来ているのだから、変化があってもおかしくはない。
それでも目の前で動き回る医師や看護婦の姿は、明らかに緊急事態を想像させるものだった。
「…なんか、やな予感がする…」
いつもの自分だったら、きっと誰かが救急で運ばれてきたと思うだけ…
けれど今自分の目の前で慌てる医師や看護婦の姿を見ると、異常なまでに胸の鼓動が高鳴っていく。
先日尚希と一緒にいた時に感じた喜びを感じるような胸の高鳴りとは違い、とても不快な高鳴りだった。
「尚希…尚希じゃないよな…」
太陽は自分の左手を胸に当てて、必死に高鳴る胸の鼓動を押さえ込もうとする。
しかし胸の鼓動が収まる気配はなく、一秒経つごとに激しくなっているような気がした。
「……」
太陽は自分の胸を押さえながら、慌てる医師や看護婦の横を急いで通り抜けていく。
「尚希っ…」
自分の向かう道には、看護婦の姿が必ずあった。
ある人は自分と同じ進行方向へ走り、ある人は自分の向かっている方向から走ってくる。
それがより一層胸の高鳴りを激しくさせ、小さな不安を大きくさせていく。
「お前じゃないよな…お前じゃ、ないよな…」
大きな不安に、自分の身体が押し潰されそうになる。
このままこの先に行きたくない…このまま逃げ帰りたいとも思う。
それでも走り出している足は、止めることが出来ない。
「はぁっ…はぁっ…」
胸の高鳴りのせいか、小走りでもすぐに息切れをしてしまう。
「尚希…尚希っ…」
そうであって欲しくないと、強く心に願う。
目の前を通っていく看護婦や医師の姿を見るたびに、太陽はそう思っていた。
きっと違う人の所に行っている。きっと尚希とは、何の関係もない人の所へ行っている。
走りながらそう必死に思い、自分の心を落ち着かせようとする。
しかし大きな不安の前では、それは気休めにも出来なかった。
そして…思っていたことは不安ではなくなることを、目の当たりにする。