+会えてよかった+
六話
「たいよう…さん?」
「だから…馬鹿なこと言うなよ…」
涙が止まらない。目から流れ出る涙は、尚希の横たわるベッドにどんどん落ちていく。
「太陽さん…」
そんな太陽に少しでも近づこうと、尚希は全身に走る痛みを抑えながら上半身だけをゆっくりと起こす。
「尚希!」
「…わっ」
太陽は上半身を起こした尚希のことを、力強く抱きしめる。
「頼むから…死ぬとか言うな…死にたいとか…言うな」
どこにも届かない、切実な願い…それでもそう言うしかなかった。
「たいよ…さん…僕…ぼく…」
すると尚希の声も、だんだんと涙声へと変わっていく。
「尚希?」
「…太陽さ、ん…僕…僕…まだ死にたくない…もっと…もっと太陽さんといたい…」
太陽の言葉に、尚希もそう自分の願いを口にする。
弱々しい口調でも、その言葉には強い思いを感じる。
「太陽さんが、好きだから…大好きな太陽さんと、もっといたいから…」
そして自分を抱いてくれる太陽の背中を、弱々しい力で抱きしめてきた。
「…尚希」
「お願い…僕、まだ…もう死にたいなんて二度と言わないから…僕…」
もっと生きたい…もっと生きて、大好きな太陽と一緒にいたい。
たとえそれが口で言うことしか出来ない、かなわない願いだったとしても…
そう解っていても、口にせずにはいられなかった。
それが、尚希の心からの願いだから…
「大丈夫だって…お前は死んだりしない。絶対に良くなるから…だから治ったら一緒に出かけよう…」
太陽は尚希がどうなるかを、知らないわけじゃない。
けれど太陽は、尚希がどうなるのか…その言葉を決して口にはしない。
尚希が死んでしまうと、自分の口からは決して言いたくなかった。
「けどっ…けど、ぼくっ…」
太陽の胸に抱かれ、目から涙をボロボロこぼしながら、尚希は太陽の言葉を否定しようとする。
「…大丈夫だって…絶対、大丈夫だって…」
太陽は尚希を強く抱き、そう何度も繰り返す。
その言葉は尚希に言い聞かせるだけじゃなく、もしかしたら治るかも知れないと…自分も信じたかった。
自分の中だけにある僅かな望みを、なくしたくなかった。それをなくしたら、本当に全てが終わってしまう気がしたから…
「…ぅん…うん…」
太陽の言葉に押され、尚希はそう返事を返してきた。
「大丈夫だから…」
「うん…」
尚希の目からは、涙が止め処なく流れ続けていた。しかしそれは悲しみの涙だけじゃない…自分を支えてくれる太陽への、嬉し涙も一緒に流れていた。