+会えてよかった+
七話


「ふぅ…疲れたな」
数分後、太陽は病院裏手にある小さな山へとやってくる。
道もしっかりとしていて、病院からの距離もさほどないのだが、重い荷物を持ちながらこの場所に来るのは流石の太陽でも一苦労だった。
「良い景色だな…」
太陽はそう言うと、持っていた荷物をその場に置く。
そしてバッグの中から、尚希の日記に挟まっていた玩具の飛行機を取り出す。
「…懐かしいな」
太陽はパッケージを開けて、バラバラになっている飛行機の部品を取り出すと、その場に座り込んで組み立て始める。
「俺も子供のころ、良く買ったっけな…色んな種類があってさ…」
誰もいない中で、太陽はそう独り言を言いながら飛行機を、慣れた手つきで一分も経たないうちに完成させる。
「よしっ…風も良い感じだし、上手く飛ぶと良いな…」
太陽はその場から立ち上がり、玩具の飛行機を上に向けて飛ばそうとする。
「行くぞっ!」
そう言うと太陽は右手に持った玩具の飛行機を、空へと向けて思いっきり飛ばす。
飛行機は風に乗り、空高く舞い上がっていく。
「…尚希、見てるかー…すっげー良く飛んでるぞ」
尚希が残した日記には、一緒にこの飛行機を飛ばしたいと書いてあった。
「飛んでるぞー…」
太陽はまるで誰かに言い聞かせるような口調で言いながら、空を飛ぶ玩具の飛行機をずっと見続けていた。
そして玩具の飛行機は飛ぶ高度を低くしていき、やがて自分の目の前へと帰って来るように落ちてくる。
太陽は落ちた飛行機を、しゃがんで再び右手に持つ。
「…ごめんな…一緒に飛ばせなくて…」
一緒に飛行機を飛ばす…
もしかしたら自分が尚希にしてやれる、唯一のことだったかも知れない。
それをしてやることが出来なかったことが、悲しかった。
「……もっかい飛ばすからさ、ちゃんと見てろよ」
尚希はこの飛行機を、太陽と飛ばすことを望んでいた。
尚希はいないけれど、それでも太陽はこの飛行機を飛ばしてやりたかった。
この飛行機を飛ばせば、きっと尚希がまた自分の前にきてくれると思ったから…
太陽は涙をこらえ、もう一度右手を空へと向ける。
そして力いっぱい、青い空へと飛行機を飛ばす。
さっきよりも高く、飛行機は舞い上がっていった。


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