+Love You+
一話/約束
Scean1


昼休みも終わりに差し掛かった頃、教室で友人の敦と雑談をしていた将幸のもとに、一人の男がおどおどしながらやってくる。
「……ぁ、あの」
身長は将幸よりも一回り以上に大きく、顔を見るだけでも真面目そうに見える。
しかしその顔は非常に整っていて、間違いなく美少年と言えるような男性だった。
「…なに? なんか俺に用あるわけ?」
「あ、えと…」
男性の顔は間違いなく将幸の方へと向いており、何か言いたいことがあるのは目に見えて解る。
だが男性は口ごもってしまい、先の言葉をなかなか言おうとしない。
「用あるならさっさとしてくれねぇ? 俺も忙しいからさ」
そう言うと将幸は目の前にいる敦と、再び雑談を始めようとする。
別に忙しいような用事などある訳もなく、ただ変な奴とは会話をしたくないと思っただけだった。
「あ、えと…将幸君…だよね?」
そんな将幸の声に押されたのか、男性は将幸の名前を口にしてきた。
ただ過度の緊張のせいか、声色はかなりぎこちなく聞こえる。
「はぁ…そうだけど、あんた誰」
流石に自分のことを確認するように呼ばれては無視することも出来ず、将幸はため息を吐きながら男性の方へと身体を向ける。
その表情は、明らかなまでに面倒くさそうだった。
「あ、僕4クラスの友紀哉って言うんだけど…」
友紀哉の声は小さく、顔も将幸の方を見たりそらしたりを繰り返す。
はたから見れば、まさに挙動不審そのものだった。
「ふーん…で、わざわざ俺のとこまで来て、なんか用があるわけ?」
友紀哉のおどおどした感じとは異なり、はっきりとした口調で将幸は返事を返す。
「あ、うん…その…」
しかし友紀哉は将幸の言葉に返事を返すことなく、その場で黙り込んでしまい、会話が止まってしまう。
「…あのさ、俺も暇じゃないんだよね。用ないんだったら、帰ってくれっかな?」
無言の空間が10秒と経たないうちに、将幸は少しだけ怒るような声を出す。
短気で行動的な将幸にしてみれば、目の前でおどおどする友紀哉の姿は、見ているだけでもイラついてしまう。
「まっ、待ってよ! あの、良かったら今日の放課後、屋上に来てくれないかな?」
そんな将幸の怒りを敏感に察知したのか、友紀哉は顔こそ横に背けながらも、はっきりとした声を出してきた。
「はっ? なんだよ、それ…」
「そっ、それだけだから…じゃあっ!」
将幸が友紀哉の言葉の意味を聞こうとするものの、友紀哉は自分の伝えるべきことを言った後、逃げるように教室を後にしてしまう。
「…なんだってんだよ、いきなり…」
突然のことにその場で呆然としていると、隣の席で様子を見ていた敦が声をかけてきた。
「きっと告白だぜ、告白。もてるねぇ、将幸君」
「…やっぱり、か…はぁー、カッタリーな」
将幸は敦の方に顔を向けながら、面倒くさそうな声を出す。
この学校は男子校であるにも関わらず、将幸は告白されることがかなりあった。
「ったく、なんでこんなに告られなきゃなんないんだよ」
机の上に顔を沈めながら、目の前にいる敦に愚痴りだす。
「あははっ。そりゃ将幸が可愛いからだろー」
しかし敦はそんな将幸の愚痴を、冗談を交えて笑いながら言ってきた。
「…ふざけたことぬかしてると、お前でもブン殴るぞ…」
そんな敦の声に、将幸は睨みつけるような目で威圧しながら口を開く。
「はいはい…悪かったって」
「ちっ…」
ただそんな威圧した目にも関わらず、敦は軽い口調で怒りをあらわにする将幸をなだめていた。
将幸は見た目は敦の言うよう、確かに可愛くて背丈も低く、見た目だけを言えば確かに男性にもてるのも理解できる。
しかしその内面は、かなり過激だった。
中学の時はイジメの主犯だったこともあり、ちょっとでも気にいらない奴がいれば、小さな身体とは思えない力で暴力をふるうこともある。
それに将幸自身は暴力が悪いなど一度も思ったことがなく、ストレス発散の為だったらなんでもするようなタイプだった。
「とにかく…どうすんだよ?」
「…何がだよ」
将幸の怒りが収まった後、敦は少しだけ真面目な表情をしながら言ってきた。
「さっきの奴だよ。どうすんだ? 相手してやるのかよ…」
「そうだなー…まっ、気が向いたら行くさ。どうせ今日も暇だしな」
今日の予定を思い出しながら、将幸は返事を返す。
「…まぁ、お前のことだし余り口出しはしないけどさ。あんま変なことするなよ」
敦から返ってきた返事は、とても真面目に自分のことを心配して言っているように聞こえた。
しかしそんな敦に対して、将幸はケラケラと笑い顔を見せながら返事をする。
「大丈夫だって、あんな弱々しい奴なんか平気だって」
「はぁ…だと良いけどな」
呆れるような声が聞こえた瞬間、午後の授業の開始を告げるチャイムの音が鳴り響いてきた。
「んじゃオヤスミー」
「はいはい」
同時に将幸は敦に就寝の挨拶をすると、両腕を枕代わりにして夢の世界へと旅立ってしまった。


[1]Next
[2]back