+Love You+
一話/約束
Scean2


午後の授業が終わった後、友紀哉は屋上に立っていた。
空の色はもう暮れかかっていて、足元を赤く照らす。
「将幸君…来てくれるかな」
帰宅する沢山の学生を屋上から眺めながら、呟くように一人口を開く。
特にすることもない友紀哉は、そんな学生の姿をずっと見つめていた。
「……」
やがて目に映るものは空の明かりで赤く変色したグラウンドだけになり、友紀哉は屋上入り口近くの壁を背もたれにしながら座り込む。
「…はぁ…将幸君、来てくれるかな…」
何度もため息をつきながら、同じ言葉を繰り返す。
友紀哉は2年の時にこの学校へと転校してきて、将幸と出会ったのもその初日だった。
しかし出会ったとはいえ決して話をしたりした訳ではなく、たまたま自分の目の前を通り過ぎて行く将幸の姿を見かけただけだった。
「…将幸君…」
自分の目の前を通り過ぎる将幸の姿を見た瞬間…友紀哉は今までに感じたことのない胸の高まりを感じ、その姿が自分の視界から見えなくなるまで追い続けていた。
「……」
その日以来友紀哉の頭の中は将幸のことでいっぱいになってしまい、どんな時でも将幸のことを考えるようになっていた。
「…なんか、ドキドキする…」
友紀哉の全身に、不思議な感覚が伝わってくる。
今までにこれほどまでに誰かを想ったこともなく、初めての告白という行動に、友紀哉の全身は過度の緊張に包まれていた。
「はぁー…ふぅー…」
いつも通りの感覚に戻そうと、友紀哉は大きく深呼吸をする。
しかし全身には相変わらず不思議な感覚が残り、身体がまるで自由に動かせないようにも感じた。
「うぅぅ…緊張するな…」
友紀哉はその外見から、今までに沢山の女子から告白もされている。
当然つきあったことも何度かあるものの、長く続いたことは一度もなかった。
「はぁ…」
もともと押しに弱く、告白されれば嫌だと言えない友紀哉は流されるまま付き合うことが多い。
その関係で友紀哉自身が相手のことを余り好きになれず、おとなしい性格もあってフラれてしまうことが殆どだった。
「……」
身長は高く非常に大人びてはいるが、友紀哉はとにかく自己主張が出来ない。
付き合って最初の頃は相手が好きということもあって上手くは行くものの、時が経つに連れて好きという気持ちの熱も冷めていってしまう。
自分の気持ちを全く言わない友紀哉に、相手がイラついてしまうからだった。
「今日は…しっかりしないと」
もちろん友紀哉自身は相手のことをイラつかせるつもりなど全くないし、むしろどうしたら相手が喜んでくれるのかを必要以上に考えている。
しかし優柔不断な友紀哉は考えるばかりで、行動に移すことは出来なかった。
「うん…しっかり…」
そして最終的には相手に好きかどうかを問いただされるのに、それすらも返答出来ない…それが原因で愛想をつかされてしまうのが、もうパターンのようになっていた。
「今日はしっかり…しっかりと言わなきゃ…」
友紀哉自身も、もっと自己主張が出来るようになれば…とは思っていた。
だから今日将幸を誘ったことも、友紀哉にしてみればかなりの大冒険だった。
「今日は…今日はっ!」
友紀哉は気合を入れるように、右手に拳を作りながら言う。
将幸への想いも本気だったが、友紀哉の中にはその他に、告白することで自分を変えていけるかもしれない…そういう気持ちもあった。
もし将幸に相手にされなくても、今までの自分に出来なかったことが出来た…
それを自分を変えるきっかけにしたいと、友紀哉は考えていた。
「ふー……」
過度の緊張は時間と共に収まっていき、友紀哉は顔を空へと向ける。
赤い空は、黒く変化し始めていた。


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