+Love You+
一話/約束
Scean6


聞こえない声に苛立って将幸が大きな声を出すと、友紀哉は目に大量の涙を溜めて大声を出す。
「違うよっ! 僕は…僕はそんな理由で、将幸君を誘った訳じゃない!」
「なっ…なんだよいきなり…」
さっきまでの声とは異なり、強い口調で友紀哉は言ってきた。
突然のことに将幸は驚いて、その場にたじろいでしまう。
「セックスって、好きな人とすることでしょ? そんな簡単にセックスするなんておかしいよ!!」
友紀哉は瞳に溜めた涙をぽろぽろとこぼしながら、目の前にいる将幸に言う。
しかし将幸は友紀哉の言葉を聞くなり、怒りをあらわにしていく。
「んなの俺の勝手だろうが!!」
もともと自分が好きでやっていることであるのに、それを否定された。
将幸にしてみれば、自分のことを否定されることは一番嫌悪することでもあった。
あらわになる怒りは、止まることなく友紀哉にぶつけられる。
「俺は好きでやってんだ! お前なんかに言われる筋合いはねぇだろ!!!」
「ひっ…でっ、でもっ!!」
一瞬将幸の言葉にたじろぐものの、友紀哉は再び否定の言葉を言おうとする。
しかし将幸はそれを遮り、今度は逆に友紀哉の言葉を否定していく。
「だいたい…ばっかじゃねぇの? 今時『セックスは好きな人とー』なんてはやんねぇよ」
「えっ…」
「好きなときに、やりたい奴とセックスして…気持ちよけりゃそれで良いんだよ」
そういう将幸の表情や口調には楽しさを感じさせるものがあり、嘘を言っているようには思えない。
「けっ…けどっ」
それでも友紀哉は受け止めようとはせず、否定を繰り返そうとする。
ただそれ以上先の言葉は、出てこなかった。
「…お前だって、気持ちよかったんだろ? 好きな俺とヤれて、嬉しかったんだろ?」
「えっ…」
「好きな俺に童貞頂かれて、嬉しかったんだろ? あははっ」
そんな友紀哉に、将幸は笑いながら声をかける。
特に最後の言葉を言う時には、この上なく楽しそうに口にしていた。
「あ…うっぁ…」
将幸の言葉に友紀哉は言い返す言葉が思い浮かばず、完全に口ごもってしまう。
全て将幸の言う通りだった。
好きな将幸とセックスが出来た…それは本当に嬉しかったから。
「あ…あっ…」
返事を返してくることなく、その場で放心している友紀哉に、将幸は自分の身体を近づける。
「だから…お前も気にすることないって…な」
将幸は耳元でささやくような声で、さっきまでとは異なる優しい言葉を耳元で言う。
「…んじゃまたなっ」
そして将幸は友紀哉をその場に残したまま、走るように屋上から去って行ってしまった。
「うぁ…あっ、あっ…」
友紀哉はその場で身体を完全に丸めて、地面に両手をつく。
下に俯けた顔からは、涙が止め処なく流れ続けていた。


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