+Love You+
二話/強制
暫くすると、敦が教室へと入ってくる。
自分の机のある将幸の前までやってくると、椅子に座って将幸に話しかけてきた。
「…きたぜ…」
敦はまだ顔を窓の方に向けたままでいる将幸に、なんの前振りもなく言う。
「はっ? なんだよ、いきなり…」
いきなり言われる言葉に、将幸は敦の方を疑問の表情を向ける。
「…例の闇討ちのことだよ…なんか唯のとこに手紙入ってて、俺に伝えろって…」
「手紙…で、なんて書いてあったんだって?」
敦の言葉に驚きながら、将幸はそう質問する。
「なんでも今日の放課後に、体育館の裏に来いってさ…」
「マジかよ…あ、でも俺とお前って…」
そう言いながら、将幸はさっきまで食堂で話していたことを思い出す。
今まで被害にあった奴らの全員は、自分となんらかの肉体関係があった。
けれど目の前に居る敦とは、そんな関係になったことは一度もなく、ただ仲のいいダチに過ぎない。
「あぁ…でも俺が呼ばれたのは、間違いない。唯からその手紙も見せてもらったしな」
そう言って敦はその手紙を、将幸の机の上に放り投げるようにする。
将幸はその手紙を手にすると、書かれている文字に目を向ける。
「…本当だな…なんかスゲ」
ドラマなどでしか見たことのないような手紙に小さな感動を覚えながら、将幸は敦のほうに目を向ける。
そこには険しい表情をした、敦の姿があった。
「お、おい…そんな顔すんなって…」
「いや…いちいち唯のやつ通すこともねぇだろって」
落ち着いた声でも、沸々と湧き上がっている敦の怒りが伝わってくる。
敦が唯に対して特別な感情を持っていて、それが明らかなまでに恋愛感情だと解る瞬間だった。
「落ち着けって…で、どうするんだ?」
怒りをあらわにしていく敦に対して、将幸は諭すように言う。
「とりあえずブッ殺す…」
しかし敦は、冷たい口調でそう言い放つ。
敦は普段はおとなしい人物であるが、実際は将幸以上に過激だったりする。
完全にヒートアップしてしまえば、誰も止められない程に…
将幸はそれを知っていることもあってか、出来るだけ敦のことをなだめようとしていた。
「はぁ…そう言うなって。うーん…」
少しのため息をつきながら、将幸は少しだけ頭を抱えて考え始める。
「んだよ…何考えてんだ?」
「…決めた。俺が行く」
敦が考え込む将幸に荒々しい声をかけると、将幸は思いついたように声を上げる。
「はっ? なんでお前が行くんだよ」
突拍子もなく言われたことに、敦は自分の怒りのことも忘れてきょとんとした表情をする。
「いや…やっぱ俺に関係してるかも知れないなら、俺が行くのが一番かと思ってさ」
食堂で話していたことを思い浮かべながら、将幸はそう口を開く。
「そりゃ…そうかも知れねぇけど…」
そんな将幸の言葉に、敦は僅かに不満の表情を浮かべる。
自分の持った怒りを発散させる為の矛先を、取られるような気がしたからだった。
「まぁまぁ…今回は俺に任せとけって。お前に代わって、ボッコボコにしてやっからよ」
敦の表情に、将幸は小さく笑いながら言う。
「お前…暴れたいだけだろ…」
将幸の言葉に、敦は落ち着いて返事を返す。
付き合いが長いこともあってか、将幸の考えていることは良く解る。
しかも解りやすい返事を返してくるのならば、なおさらのことだった。
「えっ? まぁ、それもあるかもな」
敦の言葉に、将幸はニヤニヤとした表情で返事をしていた。
「…お前がそう言うなら、俺は今回パスするけど…」
「マジで? やたっ!」
余りにもにやけた表情で言う将幸に、敦は渋々言う。
すると将幸は、嬉しそうな声で返事をしていた。
「…はぁ、とりあえず気をつけて行けよな」
半分呆れ顔で言う敦に対して、将幸はにやけるばかりだった。
「どうしてやっかなぁ…」
将幸は一人でそう言いながら、頭の中でこれから出会う人物をどう殴り倒してやろうかと考えていた。
それは敦の言うように、将幸は自分に関係があろうがなかろうがどうでも良かった。
ただ日々に溜め込んだ鬱憤を晴らせる、良い機会に過ぎない。
その程度にしか考えていなかった。
「っと、そろそろ授業始まるみたいだな」
やがて教室中に響くチャイムの音が鳴り響くと、敦は時計に目を向けながらそう言う。
「どうせくっだらねー授業なんだしさ、後々のこと考えて寝るわ」
「…はいはい。おやすみなさい」
敦の返事を聞くと、将幸は教師が教室へとやってくる前に眠りについてしまった。