+Love You+
三話/愛した人


「…それで? 俺にどうして欲しいんだ」
全てをキレイに片した後、剛は将幸に向かって言ってくる。
「だから、また変な奴がいるから…助けて欲しいんだよ」
「……」
願うような将幸の言葉に対して、剛は何の返事も返してはこない。
将幸は有名になるほど学校中の男子と身体を重ねていることもあって、それに伴う事件も少なくない。
突然襲われたり、しつこくつきまとわれたり…
しかし将幸は気性の荒さもまた有名であり、大半の事件は自分で解決が出来た。
ただし解決と言うよりかは、強引な暴力で無理やり押さえつける形が多い。
「ちょっとタチ悪くてさ、俺じゃムリなんだよ…だから頼むって!」
けれど時々だが、将幸の力だけでは解決出来ないこともある。
その時は必ず剛の元へとやってきて、助けて欲しいと頭を下げていた。
「……」
繰り返す将幸の願いにも、剛は一言も返してはこない。
「…怒ってるのか?」
剛を怒らせれば自分でも止めることが出来ないと解っていることもあって、将幸は少しだけ怯えるような表情を見せる。
「…いや。それで…どいつだ?」
「……4クラスの友紀哉って奴! こいつマジムカつくから、ブッ殺してくれよ!」
剛の返事を聞くと将幸は顔を緩ませて嬉しそうな顔を見せると、いつもと変わらない過激な発言をし出す。
「…解った」
そんな将幸に対して剛は表情ひとつ変えず、一言だけ返事をすると2人だけの教室を後にしようとドアの方へと向かう。
「ちょ、剛ってば!」
「…用件はそれだけだろう? 他に何かあるのか」
そっけない態度を示す剛に、将幸は不安になって呼び止める。
それでも返ってくる返事に変化はなく、将幸はどことない冷たさを感じてしまう。
「いや…ない、けど…」
特に用件があるわけでもなく、将幸はその場で黙り込んでしまう。
「……これに懲りたなら、もう変な真似事はしないことだな」
「…解ってるよ」
少しの沈黙の後に、剛は呆れたような口調で言ってくる。
その声に対して、将幸は横を向いて適当に返事を返していた。
剛へと頭を下げるたびに、同じ台詞を繰り返し耳にする。
将幸はそんな剛の言葉に理解の返事を返すものの、守ったことは一度もない。
何かがあれば剛に助けてもらい、ことが済めばまた同じように見知らぬ人物と身体を重ねる…将幸はそれを繰り返していた。
「…じゃあな」
そのせいかもう言っても仕方ないとは解っているようで、剛は将幸の適当な返事にも関わらずその場を後にしてしまった。
「…仕方ねーじゃん…そうでもしなきゃ構ってくれねーし」
誰もいなくなった教室で愚痴をこぼしながら、将幸もまた一人になった教室を後にする。
廊下に出るとまるで狙っていたかのように、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いてきた。


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