+Love You+
三話/愛した人


「んっ、んんっ…あれ…ここ」
将幸が目を覚ますと、辺りは真っ暗で何も見ることは出来ない。
少なくとも自分がまだ倉庫にいるということだけは、周りにある物や自分の横たわっていたマットの感触で解った。
倉庫の中にある唯一の小窓からも明かりは差し込まなくなり、完全な暗闇の中で将幸は身体の感覚を少しずつ取り戻していく。
「んっ…あれっ、手が動かない」
戻ってくる感覚を頼りにしながら、四肢を動かして起き上がろうとする。
しかし手足を何かに縛られているようで、その場でじたばたと動くことしか出来ない。
「んだよっ! これっ…」
必死になって縛られた手足を解放させようとしても、きつく縛り付けられているせいか緩みすらしない。
「…将幸君。おはよう」
「っ?! お前っ…解けよっ!」
身体を動かしていると、暗闇の中から声が聞こえてきた。
それが誰のものであるかは、嫌でもすぐに解る。
自分の怒りと憎悪の対象である人物の声を、将幸はもう忘れることは出来ない。
「…それは出来ないよ…解いたら将幸君、暴れまわるから…」
暗闇に慣れてくる瞳は、僅かに友紀哉の姿を捉える。
同時にその後ろに座り込んだまま動かない剛の姿も一緒に、瞳の中へと入り込んできた。
「てめっ…!」
その姿を見た瞬間、気絶して抑えられていた将幸の怒りと憎悪が表出していく。
表情、口調、行動…そのどれもが怒りに満ちている。
しかしどんなにそれを表現したとしても、目の前にいる友紀哉には全くそれが伝わっていないようだった。
「…将幸君。もう大丈夫だよ…そんなに怒らなくても、もう君を傷つけるような奴はいないから…」
「ふざけんなっ! 剛はっ…剛はそんな奴じゃねぇ!」
本当に剛は自分のことを守る為に、助けてくれたのではないかも知れない。
それでも自分の愛した人である以上、そう信じたかった。
「…将幸君、騙されてるんだ…」
力強い口調で言う将幸の声にも、友紀哉は決して耳を傾けようとはしない。
やがて友紀哉は自分の右手を将幸の頬へと当て、そっと自分の顔を近づける。
「何が騙されてるだ、ふざけるなよ! 剛は…剛はっ!!」
お互いに話す言葉は平行線を辿り、どちらとも譲ろうとはしない。
将幸は愛した剛のことを信じ、友紀哉はそれを嘘だと言う。
「…将幸君。僕のこと、信じてよ…僕は将幸君のこと、本気で…愛してるから…君を、あいつみたいに傷つけたりしないから…」
「ふざけるなっ! 剛は俺を何度も助けてくれたんだぞ?! 傷つけられてなんていなっ…んんっ!!」
話の平行線を破ったのは、友紀哉の方だった。
ひたすらに怒りの感情をむき出しにする将幸の唇を、自分の唇で塞ぐ。
「…将幸君。僕は本気で将幸君のこと大切にしてるんだ。あいつみたく、身体目的じゃなくて…」
友紀哉は座り込む剛の身体を指差しながら、将幸に言い聞かせるように言う。
「違うっ! 剛はそんな奴じゃ…そんな奴じゃねぇっ!」
どんなことを友紀哉にされても、将幸の剛に対する信じる思いは揺るがない。
そして将幸がそう言った後、友紀哉は暫くの間黙り考え込む。
「…じゃあ、見せつけてあげようよ…僕が将幸君のこと、本当に愛してるってこと…」
「なに…言ってんだよ…」
返ってきた返事は自分の意見への否定ではなく、今までとは異なる返答だった。
その口調も今までとは異なっており、とても冷たい印象を受ける。
そんな友紀哉の声に、将幸は今まで表出させていた怒りが消え、どことない恐怖を感じた。
「…僕が将幸君のこと本当に愛してること見せつけてやれば、あいつももう手出しをしなくなるから…」


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