+Love You+
四話/ココロ


それから自分がどうなったのか…はっきりと頭の中には残っていない。
「う…ぅっ、ん…」
目を覚ました時にはもう人の気配は何もなく、自分ひとりであることはすぐに解った。
最初は何故自分がこの場所にいるのかを理解することが出来なかったが、身体は嫌でもその理由を物語る。
「…俺、やっぱり…」
ただの悪夢だと思いたかった…だが今自分のいる場所は、間違いなく学校の倉庫。
そして自分の格好も、暗くて確認できなくてもすぐに解る。
下半身は完全にさらけ出ており、そこには僅かに乾いた液体の感触も残る。
その部分に右手を持ってくると、ネバついたものが指にまとわりついてきた。
「…俺、気絶したのか…」
記憶に残っているのは、友紀哉に犯されていたこと。
自分がどうなったのかは、頭の中に全く入っていなかった。
「剛は…剛っ?」
忘れられない記憶が、もうひとつだけあった。
目の回りが赤くなるほど涙を流した理由…犯されながらも、その姿をひたすらに追い求めていた人物の姿を探し出す。
「剛…剛…」
剛の姿を最後に見た場所を、月明かりだけを頼りに目を向ける。
しかしその場所に人の姿はなく、コンクリートの壁があるだけだった。
「…やっぱり、あれは夢だったのか…」
自分が友紀哉に犯されたことは、身体の状況から見ても間違いない。
ただ剛の姿が見つからないことで、将幸の心は少しだけ安心していた。
それは剛の死を、夢かもしれないと考えることが出来たからだった。
「っ…これっ!」
それでも現実は、将幸の夢をすぐに打ち砕いていく。
僅かな月明かりが壁を照らした時、そこには小さいながらも赤い斑点が見える。
しかも1ヶ所ではなく、数ヶ所に渡って飛び散るように出来ていた。
「あっ…うっ、あ…っ!」
言葉をなくして顔を床に向けた瞬間、将幸は驚いて目を見開く。
乾いてはいるものの、赤いだ円状のものが見えた。
「……剛っ…」
剛のものだと確認できるものは、なにひとつない。
それでも将幸には、それが間違いなく剛のものであると解った。
同時に自分がこの目で見て、そして体験したことは全て夢ではないと確信する。
「うっ、あ…ぅぁ…」
友紀哉にひたすら向けられていた怒りの感情は、もうこみ上げてこなかった。
ただ悲しかった…大好きだった剛とは、もう決して会えないこと…悲しくて、また涙がこぼれてきた。
「うぁ…うぁぁっ…」
将幸はその場で泣き崩れ、膝を落として大きな赤い斑点に向かってぽろぽろと涙をこぼす。
温もりのない剛の一部に、将幸の涙が混ざり合っていく。
「うぁぁぁ…あぁぁぁ…」
汚れた下半身をそのままに、将幸はその場で止め処なく涙を流し続けていた。


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