+Love You+
四話/ココロ
「おっはよーん。珍しいじゃん、お前が時間通りに学校くるなんてさ」
敦は少しふざけた感じのする声を、椅子に座って顔を下にうつむけている将幸に向けて発する。
「……」
しかし将幸はその声に対して何の反応も返すことなく、顔をあげようともしない。
どうせ早く来すぎて眠いだけだろうと思い、今度は将幸の背中をゆすりながら声をかける。
「おいっ! 起きろよっ!」
「……」
触れる手には確かに人の温かさがあるものの、将幸はぴくりとも動かない。
「おい、将幸! 起き…っ!」
敦は少しだけ怒るような声を出そうとした瞬間、将幸は自分の頭を上げてきた。
しかしその動きはとても遅く、まるで頭に重いものを乗せられているのかと思うほどだった。
「…んだよ…うるせぇよ」
「おまえっ…将幸、だよな?」
あからさまに苛立ちを見せる将幸の表情を見ると、敦は確認するように言ってきた。
声はかすれていたものの、確かに将幸の声であることは解った。
ただその表情は、いつも見ている将幸の表情とは明らかに違っていた。
「…そうだよ…当たり前なこと言うなよな」
敦の声に、将幸はプイッと顔を横に背けてしまう。
「いや…なんか、別人に見えたから…」
昨日までに見ていた将幸の表情は、とても明るくて若々しく見えていたのに、今はそう見ることは出来ない。
「……」
「なぁ、なんかあったのか?」
敦は将幸の急激な変化に、何かあったのだとすぐに解った。
「……別に」
それを聞こうとするものの、将幸は顔を横に向けたままそう一言返すだけだった。
「あのな…そんな顔してて、何もなかったって無理な話だろうが」
「……なんでもねぇよ」
いつもの将幸であれば、呆れるような声で話しかけると怒るような声で返事をしてくるはず…
それなのに今日は、まともな返事すら返してこない。
いつもとは違う将幸の言動に、流石の敦も心配そうな表情で話しかける。
「…なんかあったんだろ? 言って…」
「……っ! なんでもねぇって言ってるだろ!! 俺に構うなよっ!!」
敦が声をかけている途中で、将幸は突然大きな声を出す。
机をグーにした拳で叩きつけ、声と共に大きな音をあげる。
「どっ、どうしたんだよ…いきなり大声出したりして…」
突然の出来事に、敦は不意をつかれてたじろいでしまう。
同時に教室中にいる人物の目が、恐る恐る将幸へと向けられていく。
「…ぁっ! なっ、なんでもねぇよっ!!」
その沢山の視線を感じるなり、将幸は勢い良くその場から立ち上がると、逃げるように教室の出入り口へと向かう。
「あ…おっ、おいっ! 待てって!」
唖然として立ちすくんでいた敦は我に返ると、教室から出て行こうとする将幸のことを止めようとする。
「うるせぇっ! ついてくんじゃねぇぞ!!」
しかし将幸は敦に向かって罵声を浴びせ、壊れるのではないかと思うほどの力でドアを開けると、廊下に向かって出て行ってしまった。
「…なんだってんだよ、あいつ…」
将幸から罵声を浴びせられることなどもう慣れっこな敦にしてみれば、別に怒りを感じることはない。
それよりも明らかに昨日までとは違う将幸の態度の方が、ずっと気になっていた。
「はぁ…でもま、今は関わらない方が良いか…」
敦は心配そうな表情を消すことなく、呟くように言いながら自分の机へと戻っていった。