+Love You+
四話/ココロ


「…くそっ…」
将幸は顔を下に向けたまま、屋上への階段を昇って行く。
丁度登校時間と言うことも関係してか、自分の横を大勢の生徒が通り過ぎていく。
そのざわめきに身を隠すようにしながら、将幸は歩いていた。
「……誰も、いないか…」
立ち入り禁止区域になっている屋上には、誰の姿も見ることは出来ない。
静かな空間に僅かな恐怖を感じつつも、将幸は屋上と空との境目にある鉄製の柵を背中にして、倒れるように座り込む。
「…はぁ…」
疲れきった表情を、空へと向ける。
雲ひとつない快晴な空が、霞んでいる瞳に入り込んできた。
「……」
一晩中寝ることこそ出来なかったものの、朝にはなんとか自分の心を落ち着けることが出来た。
それでも自分の中にある警戒心は非常に高く、ちょっとしたことでも反応を返してしまう。
「…っ! …鳥か」
柵の上に小鳥がやってくるだけで、将幸は身体を大きくびくつかせて驚きを表現する。
「…くそっ…」
その度に将幸は悔しそうな声をあげ、対象のない怒りを心の中に溜める。
本当はその程度のことだと解っているはずなのに、どうしても敏感に反応してしまう。
「昨日のは俺の思い過ごしだったんだ…だから、気にする必要なんてないんだって…」
自分に言い聞かせるよう、顔を下にうつむけながら独り言を言う。
落ち着いたことで昨日感じた恐怖の視線も感じなくなり、それが自分の妄想でしかないのだと解った。
しかし心の奥底ではそれが妄想ではなく、現実のものであると刻みこまれている。
それが過剰な警戒心となり、将幸の身体にと現れていた。
「……くっ…」
どうしてこのようになってしまったのか…自分でも良く解らなかった。
それを考えると頭の中がおかしくなり、心も完全に乱れてパニックになってしまう。
だから考えたくはないと思うのに、真実を求める自分もいる。
その葛藤が、将幸の精神状態を不安定にさせていた。
「……くそっ…くそっ…」
今の将幸にはその不安定な気持ちを安定させることが精一杯で、それ以上のことは考えられなかった。
将幸は自分ひとりしかいない屋上で、身を隠すように丸まっていた。


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