+Love You+
四話/ココロ
「……」
始業開始のチャイムが鳴っても、将幸は屋上から一向に動こうとはしない。
ただ静かな屋上で、眠るように自分の心を安定させようとしていた。
「……誰だっ!!」
「ぅっ、あ…ご、ごめんなさい…」
沈黙は長く続くことはなく、目の前にある屋上入り口の扉が開く。
金属のドアが開く音が聞こえると、下にうつむけていた顔を、大声と共に機敏に上げる。
そんな将幸の瞳は、完全に怯えきっているようだった。
「…お前、唯…だったよな」
将幸の瞳に映っていたのは、いつも敦と一緒にいる唯の姿だった。
高校生だと言うのに小さすぎるその身体は、霞む瞳でもそれが誰であるかはすぐに解った。
「あ、はい…あの、僕…将幸さんに、渡すものがあって…」
おどおどした声と動きをしながら、唯は学生服のポケットの中を探るようにする。
「俺に渡すものって…なんだよ」
目の前にいる人物について自分に害がないと解ると、将幸は面倒くさそうな声を出す。
顔も横に背かせ、唯の方には向けようともしない。
「あ、あった…この紙なんですけど…」
そんな将幸の面倒くさそうな声にも関わらず、唯は紙を見つけると小さく笑いながら、横を向いたままの将幸に右手を差し出す。
その手にはB6サイズほどに折り曲げられた、ルーズリーフが握られていた。
「…ふんっ…」
最初は受け取る気などなかったが、自分がこの紙を受け取るまで唯が帰ってはくれないと思い、渋々その紙を手に取る。
しかしその受け取り方は、嫌がるのが目に見えて解るかのように勢いを入れていた。
「わっ…あ…」
突然のことに唯は驚き、その場に倒れそうになる。
「…用事は済んだんだろ。さっさと帰れよな」
それでも将幸は唯のことなど気に止めることなく、冷たく言い放つ。
「あ…はい。それじゃ、失礼します」
「……」
そんな冷たい将幸の声に対しても、唯は丁寧に頭を下げて挨拶をして屋上を去っていった。
「…敦がいたら、俺殺されてんだろうな…」
再び一人になった屋上で、将幸は呟きながら右手に持った紙を開く。