+Love You+
四話/ココロ
完全な静寂の中に、折り曲げられた紙を開く音が響く。
ガサガサという音と共に紙は広げられ、そこにはシャープペンで薄く書かれた文字が数行書かれているだけだった。
「どうせまた、ラブレターみたいなもんか…今度は誰…っ!!」
将幸にしてみれば、どうせまた自分にとって新しいセフレの対象が手紙を書いたのだろうと思っていた。
現に書かれていた文字の内容も、今までと決して変わらない。
放課後に、人気のない体育倉庫や裏庭に呼び出される…そこまでは良かった。
ただ最後に書かれた相手の人物の名を見た瞬間、将幸はその場で完全に硬直してしまう。
「…ゆき、や…」
紙を握る力も完全にストップしてしまい、手に持った紙は風に乗って飛んでいく。
屋上に吹く風はとても強く、あっという間に大空の彼方へと飛んで行ってしまった。
「うっぁ…っ!! 誰だっ!」
一人目を見開いて硬直していると、自分の背後に人の視線を感じた。
昨日と同じ、冷たい恐怖の視線…
しかし自分の後ろにある風景は完全な空中であり、人がいる訳がない。
「あっ…違う、これは俺の…くそっ…」
パニックになりそうになるも、その光景を目にした時、自分の妄想に過ぎないと考えることが出来た。
それでも頭の中がおかしくなりそうになり、将幸はその場で頭を両手で抱え、膝をついてしまう。
身体も震え出して、それを抑えようと自分自身を抱く。
「くそ…くそぉっ!」
自分の意思に反して、身体は恐怖に怯え出す。
友紀哉の名前ひとつで、将幸の身体は完全に変調をきたしていた。
「ゆきや…俺っ…っく!」
その名前を受け付けると、自分自身がおかしくなる。
身体が、頭が、精神が…全てがおかしくなる。
「うわっ…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そしてその名前の人物のこと以外を、考えられなくなる。
考えれば余計におかしくなると解っている筈なのに、そのこと以外を受け付けなくなる。
昨日感じたものと同じものが、将幸の全身を支配していく。
それは今までに感じた恐怖の全てが、友紀哉のものであると物語っていた。
「はぁっ…はぁっ…うああぁぁぁっ!」
将幸は自分の身体を支配するものを抑えようと、コンクリートの壁に向かい、拳を作っておもいきり殴り始める。
「わぁぁぁぁっ! うあぁぁぁぁっ!!」
絶叫の合間に、コンクリートを力いっぱい殴る音が響く。
やがて将幸が殴りつける部分に赤い液体がつき始め、それはどんどんと広がりを見せる。
「あぁぁぁっ! あぁぁぁぁぁっ!!」
それでも将幸の手は止まることがなく、ひたすらに殴り続ける。
この殴る手を止めると、再び自分の身体を制御できなくなるような気がした。
だから、止めることは出来なかった。
「うあっ…うあぁぁっ!」
自分の精神を蝕んでいく友紀哉…それを激しい痛みで忘れようと、将幸は壁を殴り続けていた。