+Love You+
六話/アイシテル
「やぁ…将幸君…」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る音と同時に、将幸の前には友紀哉の姿があった。
「……」
友紀哉の声に対して、将幸は何一つ返事を返そうとはしない。
ただ暗闇の中で虚ろな瞳を見せ、力なく、倒れるように座っているだけだった。
「…将幸君…」
「……」
数日前までは、身震いするほどに感じていた友紀哉に対する恐怖心があった。
しかし今では、もう何も感じなくなっていた。
それは同時に、将幸の感情そのものが薄れていっていることを意味しており、もう何が楽しくて何が悲しいのか…それすらも解らなくなっていた。
「将幸君…」
友紀哉はその場に座り込む将幸の頬に手を当てると、自分の口元を緩ませて、にやけるような表情を浮かべる。
表情にはさほど変化が見られなくとも、その顔つきは明らかに喜んでいるのがわかる。
「……」
しかし将幸はそんな友紀哉の行動に対して、何も反応を返そうとはしない。
身体はコンクリートのように固まっており、瞳には友紀哉の姿など収められてはいないようだった。
「…ごめんね、遅くなって…すぐに愛してあげるから…」
友紀哉は将幸の腰に両手を回すと、自分の顔を虚ろな表情をする将幸へと近づけていく。
愛する者の顔への距離が縮まっていく度に、友紀哉の心に嬉しさが満ちていく。
「んっ…んっ…」
優しく触れる程度のキスが始まり、それはだんだんと深いものへと変わっていく。
将幸の身体は既に全身の力が抜けきっていて、友紀哉が入り込んでくるのに時間はかからなかった。
飲料水もまともに飲んでいない将幸の乾いた口内に、大量の滑りを持った液体が流れ込んでくる。
「んっ…ふっん…」
今までに何の反応も返してこなかった将幸から、熱い吐息が漏れてきた。
以前までは散々に嫌な気持ちを持った友紀哉とのキスが、とても心地よく感じる。
「将幸君…可愛い…」
友紀哉は時々触れ合う口元から離れ、唾液でいっぱいの口をそのままに、将幸の顔を舐めるようにしてやる。
いつもなら張りと弾力のある、きれいな将幸の肌…
しかし友紀哉の舌に感じるものは、ザラザラとした不快な感触だけだった。
それでも友紀哉は、愛おしそうに将幸の肌に口を近づける。
「う…ぁ…」
「…将幸君…愛してる…愛してるよ…」
言葉にならない声を出す将幸に対して、友紀哉はひたすらにその言葉を言い続ける。
「…愛してる…将幸君…愛してる」
その言葉に対して将幸は何の反応も返すことはなく、耳に届いているのかも解らない。
「…ぅっぁ…」
「愛してるよ…将幸君…」
友紀哉は将幸のことを、愛おしく、そして力強く抱きしめながらそう伝え続ける。
その言葉が届いているかは、どうでも良かった。
目の前の愛するものにその言葉を言うことが、友紀哉にとって最高の喜びだから…
「愛してる…」
まるで人形のように固まった将幸を見ながら、友紀哉は嬉しそうな表情を浮かべていた。