+大好きなお兄ちゃんへ+


「えっと…なに書こうかな…」
「くぅん? わんわん」
家に帰ってくると、圭太は机の中から滅多に使わないレターセットを取り出して、台所の机にそれを広げる。
買ってきたお菓子だけを渡しても良いとは思ったが、やはりプレゼントである以上、感謝の気持ちを手紙に書いて伝えたいと思ったからだった。
「うーんっと…うーん…」
「くぅーん…わん?」
圭太の座る椅子の横にはラグナがいて、不思議そうな顔で吠える。
「お兄ちゃんありがとう…でも、それだけじゃ…」
「くぅん…くぅんくぅーん…」
やがてラグナの声は寂しそうなものへと変わり、圭太に何かを求めるように身体を近づけていく。
「あぁっ、ラグナダメだってば。後で遊んであげるから、ね?」
自分の身体に身を寄せるラグナのことを抱き上げ、言い聞かせるように言う。
「くぅーん…くぅん…」
それでもラグナの声には変化がなく、より一層に悲しそうな声を出す。
「う…今日はちょっと用事があるから…後でちゃんと遊んであげるから…ね?」
そう言って圭太はラグナの身体を、先程までラグナが居た場所に置いてやる。
「くぅん…」
「えっと…うーん、っと…」
そして圭太は再びペンを手に取ると、まだ何も書かれていないレターセットを前に、頭を抱えて悩み出す。
「くぅん…」
ラグナも圭太に相手にしてもらえないことに、すねるような声を出して自分の寝床へと戻ってしまった。
「えーっと、えと…」
圭太はラグナのことに気がつくことなく、ひたすらに頭を抱える。
普段口に出していえないことを書こうとするが、それは沢山ありすぎてまとめることが出来ない。
健への感謝の気持ちや、自分の健への思い…全部を書こうとしても、まだ幼い圭太には言葉がなかなか出てこなかった。
「…うーん…こうじゃないよね…えと、最初はこんな感じかな…」
最初の一文を書き出すものの、その手はすぐに止まってしまう。
結局圭太は、日の光が完全に落ちるまでずっと手紙のことばかりを考え続けていた。


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