+僕のサンタさん+


「ねぇ、ラグナ。どのケーキにしようか?」
圭太は台所の椅子に座りながら、雑誌を見開いていた。
タイトルには大きく『ケーキの作り方』と書かれていて、圭太の見ているページの上隅には小さく『クリスマス』と書かれている。
「わんわんっ!」
圭太の言葉に、ラグナは右前足をあるケーキの写真部分へと持っていく。
「えっ…ぶっしゅど、のえる? 凄く難しそうだよ…これ」
他の丸型ケーキとは形が違い、飾りつけも明らかに難しそうに見える。
「わんわんっ!」
圭太が困惑の表情を見せても、ラグナはそれを推し進めるかのように、その写真を何度も右前足で叩くようにする。
「えー…もっと普通のにしようよー…失敗したら全部ダメになっちゃうんだよ?」
そういって圭太はその右上にある、普通のショートケーキに目を向ける。
ショートケーキならば学校の家庭科の授業で一回作ったこともあって、自分でも作れると思ったからだった。
写真のケーキにはクリスマスならではの飾りつけがされていたが、それでも簡単に出来そうだと思えた。
「くぅーん…」
圭太の言葉に、ラグナは落胆のような鳴き声をあげる。
「う…そんな声出さないでよ…仕方ないじゃないか」
今日は平日のクリスマスイブ。たとえイブでも平日である以上、健が早く帰ってくることはありえないと圭太は思っていた。
しかし今日は、早くに帰ってくることが出来ると言っていた。
「せっかくお兄ちゃんと、一緒にクリスマス過ごせるんだよ?」
だから圭太は、張り切ってクリスマスを祝う準備をしようと思っていた。
食事はいつも以上に頑張って作って、部屋もキレイに飾って…そして一番メインのケーキについては、どうしても手作りにしたいと思った。
「お兄ちゃん、きれいな方が喜んでくれるだろうし…」
圭太は手作りの方が喜んでくれるという話を、友人やテレビで聞いた。だからいつも自分に優しくしてくれる健に、少しでも喜んで貰いたかった。
そしてもうひとつの理由は、圭太は手作りしたケーキを健に食べて欲しいと思っていた。いつもしてもらってばかりの自分も、今日は健に何かをしてやりたい…だからケーキは絶対に、手作りにしたいと思っていた。
「くぅーん…くぅーん…」
圭太が困惑の表情と言葉を繰り返しても、ラグナは鳴き声を変えることなく何度も同じ声を出し続ける。
「うーん…でも難しそうだよ…これ」
圭太は他のケーキと作り方を見比べながら、そう口にする。
「くぅーーーん…」
「うーん…解ったよ…じゃあ、このケーキにしよう」
出来るだけ簡単なケーキにしたいと思っていたが、圭太は止まらないラグナの鳴き声に押されてそう返事をしてしまう。
それに難しそうなケーキを作れば、健はもっともっと喜んでくれると思ったからだった。
「わんっ? わんわんっ!」
するとラグナはいきなり圭太の顔の辺りに飛び掛ってきて、小さな舌を使ってペロペロと頬を舐め始める。
「あははっ、くすぐったいよ」
「わんわんっ!」
ラグナは嬉しそうに、圭太の少し赤みがかった頬を舐めていた。


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