+僕のサンタさん+
圭太はラグナを胸に抱いて、クリスマスで着飾った街中を歩く。
そこには若い男女が腕を組んで歩いていたり、小さな子供が親と一緒に笑いながら歩く姿ばかりが目に止まった。
「ラグナ、寒くない?」
街中を歩く人の姿に少しだけ羨ましさを感じて、圭太はラグナに話し掛ける。
「わふ!」
ラグナは圭太の胸の中で、白くした息を吐きながら元気に声をあげる。
「そっか」
街中を一人歩く寂しさを紛らわすように、圭太は時々ラグナに話し掛けながら人ごみの中を歩いていた。
「あ、あれ…恵介くん?」
そしてふと近くにあったゲームショップに目を向けると、見慣れた人物が見えた。
後ろ姿だけだったが、それが誰であるのかはすぐに解った。
「んっ? よおっ、圭太じゃん」
クラスの友人の恵介が、母親と思われる女性と一緒に店の前にいた。
そして圭太の姿に気がつくと、恵介は走ってこちらに向かってくる。
「こんなところで何してんだよ」
「あ、僕お買い物で、あそこのスーパーまで行こうと思って…」
人差し指で自分の行く場所を指しながら、圭太はそういう。
「ふーん…あっ、なぁなぁ! 見てくれよ!」
圭太の言葉を聞き流すと、恵介は嬉しそうに満面の笑みを見せる。
そして右手に持っていた袋の中から、小さな箱のようなものを取り出す。
「どうしたの?」
「じゃーん!! どうだ? 良いだろ〜…」
そういう恵介の右手には、青くきらびやかなパッケージで、文字は大きく『BOKUMON−A』と書かれていた。
「あっ! それ…ひょっとして…」
圭太がそのパッケージを見ると、驚きの表情をしながら恵介に聞こうとする。
「そうだぜ! 先週発売されたばっかりの、『ボクモン』最新作さ」
しかし圭太が聞くまでもなく、恵介は持っていた物のことを言ってしまう。
『BOKUMON』は、最近圭太や恵介の小学校で大人気のゲームのことで、よく休み時間に皆で一緒に遊んだりしている。
圭太も勿論持っていて、当然最近発売になった最新作のことも知っていた。
しかし最新作は今までの自分の持っている機種では遊ぶことができず、新しい機種を買わなければならない。そのためお金を持っていない圭太には、買うことが出来なかった。
「良いなぁ…」
「へへー…そうだろー? 母さんに頼み込んで、買ってもらったんだ」
「そうなんだ…良いなぁ…」
圭太は物欲しげな表情をしながら、そう何度も恵介に言う。
「クリスマスなんだしさ、圭太も親とかに買ってもらえば良いじゃんか」
余りにも物欲しそうな表情をする圭太に、恵介はそう言ってくる。
「えっ…うん…そうだけど…」
自分の家には健がいるけれど、父親や母親とは一緒に住んでいない。
しかし欲しいものは両親に電話でちゃんと言えば、お金をくれるといっていた…けれど圭太は、お金だけを貰う気にはなれなかった。
そうやってお金を貰うことは、ただのわがままになってしまうと圭太は感じていた。だからどんな時も、親に何かが欲しいと言ったことは今まで一度もない。
「だけど…なんだよ…」
圭太の表情は、だんだんと沈んだものに変わっていく。
いつも親と一緒にいられたら、わがままをいえたかも知れない。
「……」
圭太は下をうつむいたまま、何も話さなくなってしまう。両親のことを考えて、ただ寂しくなってしまったからだった。
健に愛されていることは解っているけれど、それでも両親とも一緒にいたい…大好きなお父さんやお母さんと一緒にいたい…その気持ちが、圭太の気持ちを沈ませていた。
「うー、わんわんっ!」
「わっあぁっ! なっ、なんだっ?」
気まずい空気がその場に広がろうとする瞬間、圭太の胸の中にいたラグナが怒るような鳴き声をあげる。
その矛先は、明らかに目の前にいる恵介だった。
「わんわんわんっ!」
「わっ…だっ、ダメだよラグナ。そんなに大きな声出しちゃ…あっ」
圭太がその場で暴れるラグナを抑えようとするが、ラグナは圭太の胸から飛び降りて、恵介に向かってさらに吠える。
「なっ、なんだよこの犬!」
「ごっ、ごめんね、恵介君。ラグナ、そんなに吠えちゃダメだろ」
そう言って圭太は、無理やりラグナを抱きかかえる。
しかしラグナは圭太の手の中で激しく動き回り、離せといわんばかりの鳴き声をあげる。
「わんわんわんっ!」
「わっ、解ったって…なんか俺そいつに嫌われてるみたいだからさ、そろそろ帰るよ」
余りにも吠え続けるラグナの声に怖気づいたのか、恵介はその場から逃げるように立ち去ってしまう。